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162 saku
side さくら
「元樹君がさくらちゃんに悪いことしたって言ってました。私にも申し訳なかっと言って、謝っていました」
その時、ピンときた。怜には話さないようにしていたのに…まさか、元樹の奴、俺を襲おうとしたこと、馬鹿正直に話したのか? 俺は心の中でため息をついた。
「元樹はどういうこと話したの?」
俺は余裕があるふりをした。
本当は怜がその話を聞いて、どう思ったのか、そして、俺に何をしようとしているのかわからなくて、かなり動揺していた。
「私より先に、さくらちゃんを抱こうとしたと話していました。でも、さくらちゃんに怒られて目が覚めたと」
怜が俺のジッと見つめていた。まるで俺の反応を見ているかのようだった。
「それだけ?」
元樹から聞いてないことは、俺からも話をしないようにしようと思っていた。だけど――。
「さくらちゃんから『抱いても良いよ』と言われて、我に返ったとも言っていました」
それを聞いた俺は、頭を抱えたい気持ちだった。…そんなことまで言わなくても良かったのに。それを聞いた怜がどう思うかを考えられない元樹は、まだまだガキなんだなと思った――。
「あいつ、後先の事考えてなかったみたいだよ」
俺はさり気なく元樹をフォローしたつもりだった。
「私は……、さくらちゃんが『抱いても良い』と言ったということがショックでした。でも……、さくらちゃんの意図も多少はわかります。わかりますが……どう言ったら良いでしょう? とてもイヤでしたし、嫉妬しました。元樹君には言えませんでしたが……」
怜が辛そうな顔をした。怜の気持ちをわかってないのは、俺も一緒だったのかもしれない…そう思いながら俺は怜に向かって頭を下げた。
「ごめんな、怜。嫌な思いさせて…。俺、何だかさ、元樹が可哀そうに思えたんだよ、吸血鬼が抱えている悲しみとか葛藤とか…わかってやれないからさ」
「だから抱かれても良いって言ったんですか?」
俺の手を握っている怜の手に力が入った。
「だって、あの場で出来ることなんて思いつかなかったんだよ、俺。バカだから…」
「だからって………」
そこまで言って、怜が黙り込んでしまった。
「怜…ごめんな……」
俺がもう一度頭を下げると、怜が首を振った。
「いえ、それで良かったんですよね、きっと。その言葉だったから、元樹君が冷静に戻れたのでしょうから――」
怜がまるで自分に言い聞かせるかのようにそう言った。すると、俺の手を痛いくらいの力で握っていた怜の手の力が、ゆっくりと抜けて行った。
「はぁ。私としたことが…冷静さを失いそうでした」
怜が真面目な顔でそう言ってから、クスクスと笑った。
「ううん。なんか緊張したけど、嬉しかったよ……怜の本気を見たような気がする…」
「そうですか? ここが自分たちの家だったら、さくらちゃん、大変なことになっていたかも知れないですよ」
怜が俺の耳元に顔を寄せてそう囁いた。身体の奥の方がぞくっとした。
「家だったら俺、どうなるんだよ?」
俺が面白半分で聞いてみると、怜が俺の耳をペロッと舐めた。くすぐったくて俺は首をすくめた。
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