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side 怜
「雨宮さん、さくらさん、お元気で」
空港に到着すると、昔のように接してくれるようになった元樹君が、少し寂しそうな顔をしながら、さくらちゃんと私に握手を求めて来ました。
「うん。元樹も元気でな」
さくらちゃんがニッコリ微笑んで握手に応えていました。
「色々ありがとう、元樹君。楽しかったよ…。いつか遊びにおいで。出来たら彼女も一緒に…」
「うん、きっと行くよ。さくらさんと雨宮さんの愛の巣を見にね」
元樹君がそう言って、さくらちゃんの頭をポンポンって叩いていました。
「なーんか、その言い方、恥ずかしい」
さくらちゃんが口を尖らせて、元樹の腕を抓りました。
「何が恥ずかしいのさ? 昨日だって、俺が部屋に居るの知ってるくせに…2人でいい事してたでしょ?」
小さい声で元樹君が言いました。
「え…聞こえてたの?」
さくらちゃんが元樹君の顔を覗き込むようにして聞きました。
「さぁ、どうかな?」
「おい、元樹! また、変な冗談言ってんだな?」
この2ヶ月の間に、すっかり子供っぽくなった元樹くんとさくらちゃん…兄弟のようで微笑ましく眺めていました。 でも時々、あまりにも仲良くしているのが気になって、後からさくらちゃんを散々鳴かせてしまった日もありもしましたが…。
「ごめんな、さくらさん。俺、兄弟が居なかったからさ、構う相手が居ると嬉しくてね。あのさ…すごく楽しかったよ」
「俺もだよ。俺の兄貴は、真面目すぎて話が合わなかったから」
「雨宮さん…さくらさんと幸せにね」
元樹君の目が、僅かに潤んでいました。
「ありがとう」
飛行機の中は、時期はずれだったせいか、空席が目立ちました。隣りの席に誰も座っていなかったという事もあり、 私とさくらちゃんは ずっと手を繋いだままでした。通路を挟んだ横の席には、眠ったままのサラリーマンや、2人の世界に入っている新婚カップルらしき人たちが座っていたので、誰も私達の事を気にかける人達は居ませんでした。
「さくらちゃん…1つ聞いておきたい事があったんです」
何度か聞いてみようと思っていたことでした。家に帰ってからでも…とも思ったのですが、人のいる場所の方が、どんな返事があっても自分が取り乱さないでいられるのではないかと思ったのです。
「何だよ? 怜」
さくらちゃんは急に私が手を放してしまったので、困惑したような顔をしました。
「もし、私が完全に元の身体に戻ってしまった場合…」
私の言葉に、さくらちゃんの表情が一瞬強張りました。
「うん…」
「私と共に、長い一生を歩んでみませんか?」
「え? どういう事?」
さくらちゃんがキョトンとした顔で、私を見つめています。もっとちゃんと言葉にしないとわからないですね……。
「私…さくらちゃんが居なくなった後、1人で生き続けたいとはもう思わないでしょう。だから…さくらちゃんにも私と同じ…」
吸血鬼になっていただきたいのです――。さくらちゃんの耳元でそう囁きました。
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