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第6話 まさかあの男の息子とは

「いやー、ラッキーラッキー。菜乃ちゃんにサインをもらって、写真もゲットしたぜ」  ほくほく顔で出て来た馨に向かって、俺は詰め寄った。 「なあ。さっきの解説の棋士って、誰だ? 遠坂六段じゃないのか?」 「ん? ああ、お前、遅れてきたから知らなかったんだな。急遽変更になったんだよ。彼は天花寺(あきら)七段」  ――やっぱり。 「天花寺って、まさか……」 「そう、あの天花寺義重(よししげ)九段の息子だよ」  薄々予想はしていたが、俺は絶句した。 「天花寺一族って、有名だぜ? 雪乃(ゆきの)夫人は女流六段だし、息子二人もプロ棋士だ。さっきの彰七段は長男。(しょう)五段は次男。末っ子の(あおい)って女の子だけが、なぜか将棋の方へ行っちまったけど……」  馨の説明を聞きながら、俺はいつの間にか、爪が皮膚に食い込むほど拳を握りしめていた。  ――天花寺義重。俺がプロ嫌いになったきっかけの、憎い男……。あの男の、息子だったのか……。 「どうかしたか?」  馨が怪訝そうな顔をする。俺は、何でもない、と首を振った。  ――ちょっとましな奴かと思ったけど、きっと気のせいだ。どうせあいつだって、親父と同じようにひどい奴に決まってる……。  俺は天花寺彰の姿を思い起こしながら、心の中でそう呟いたのだった。

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