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第15話 綺麗に食べるよな

 彰から突然の電話があったのは、翌週日曜の夜のことだった。夕食の支度に取りかかろうとしていた俺は、スマホの着信画面を見て顔をしかめた。  ――だから、教えたくなかったのに……。  業務連絡に必要だからと、無理やり連絡先を交換させられたのである。仕方なく出ると、彰は俺に、これから出て来れないかと言った。 「急に、何の用だよ?」 「来れば、分かるから」  彰は、それしか告げなかった。俺が躊躇っていると、彰はこう続けた。 「君の大好きな『洋一さん』に関係することだから。六時半に、六本木の○○という店に来て。そこで全てが分かる」  ――どういうことだ。  電話は、一方的に切られた。皆目見当がつかないが、洋一さん絡みとなれば、やはり気になる。仕方なく俺は、指定された店へ向かった。  彰が指定したのは、お洒落なイタリアンレストランだった。周囲は、カップルだらけだ。何となく気恥ずかしい思いでやって来た俺を、彰は爽やかな笑顔で迎えた。 「で、洋一さんのことというのは?」 「まあ、そう焦らないで。取りあえず、何か頼みなよ」  彰に勧められるがまま、俺はワインとサラダ、パスタを注文した。彰はなかなか本題に入ろうとせず、最近の棋戦の話などをしている。最初のうちは苛立っていた俺も、大好きな碁の話に、ついつい引き込まれていった。  料理は、なかなか美味かった。彰は、姿勢をピンと正して、優雅な仕草でナイフとフォークを操っている。  ――綺麗に食べるよな。きっと、お坊ちゃんなんだろう。  ふと気づけば、周囲の女性客も、彰にチラチラと視線を送っている。皆、彼氏連れだというのに……。  ――一体、俺たちってどう見られてるんだろうな……。  そんなことをぼんやりと考えていた、その時だった。彰が不意に、真剣な眼差しになった。見つめているのは、俺の背後だ。 「どうしたの?」 「しっ。静かに、さり気なく、入口の方を見てごらん」  言われるまま、そっと振り返って、俺はぎょっとした。一組の男女が、寄り添うようにして店に入って来たのだ。男は洋一さん、女はいずみさんだった。

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