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第24話 好きとか言ったくせに
「立て替えてもらっていただけです! でも、やっぱり本人に直接渡しますから。夜分失礼しました!」
言い捨てて、俺はさっさと踵を返した。
――仕方ない。どっちみち、同居人とはいえ、他人に金を託すのは不安だしな……。
そこまで考えて、俺ははっとした。
――同居人て、どういうことだ。
普通なら、友達とルームシェアってとこだろう。でも彰は、俺と同じで男が好きと言っていた。
――そんな奴が、普通の男みたいにルームシェアするだろうか……。やっぱり、そういう相手じゃないのか? 俺のこと好きとか言ったくせに……。
俺は、何だか胸がもやもやするのを感じていた。
――もういい、あんな奴のことなんか、忘れてしまおう。どっちみち、天花寺義重の息子じゃないか。あんな男の息子なんか、好きになれるわけが無いんだ……。
俺は彰に、やはり次回の打ち合わせ時に金を返すとだけメッセ―ジを送って、マンションを後にしたのだった。
その後彰からは、口説き文句のようなメッセ―ジが何通か来た。でも俺は、全て無視した。
――キスしたのも、一緒に寝たのも、事故みたいなもんだ……。
忘れてしまえ、と俺は自分に言い聞かせた。その一方で俺は、相変わらずいずみさんのことを心配していた。あの後、『文月』に姿を現した洋一さんは、ごく自然な態度で彼女に接していた。由香里さんは、二人の関係など露ほども気付いていない様子だ。洋一さんと由香里さん、いずみさんの三人と一緒に居合わせた時など、俺は胃がキリキリ痛みそうだった。
――何で俺が、一人気を揉まないといけないんだ……。
そう思いかけて、俺はいやいやと思い直した。俺が振ったせいでヤケを起こしたとしたら、やはり俺に責任がある。いずみさんには、真っ当な道を歩んでもらわねば……。
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