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第25話 新しい彼氏、作る気無いのか
そこで俺は、馨に、いずみさんにアタックするよう勧めることにした。馨は以前からいずみさんに惚れていたのだが、彼女が俺を好きということで、遠慮していたのだ。
俺は馨に、いずみさんを振ったことを告げ、今がチャンスではないかと唆した。さすがに、洋一さんとのことは言えなかったが。
「弱っている時につけ込むようで、何だか気が引けるな」
馨は少し尻込みした。そんな奴を見て、俺はふと、彰の台詞を思い出した。
『昴太のことが大切だから、弱っている時につけ込むような真似はしたくないんだよ……』
――何を、いけしゃあしゃあと。
一瞬湧き上がった怒りを抑えて、俺はなおも馨を説得した。
「そんなこと言ってたら、変な男にかっさらわれるぞ?」
――実は、現在進行形で、そうなんだよ……。
洋一さんの件を黙っていることには若干良心の呵責を覚えたが、これは二人にとっていいことなのだ、と俺は自分に言いきかせた。馨は見た目こそもっさりしているが、誠実ないい奴だ。きっと、いずみさんを幸せにしてやれることだろう。
「そうだ、馨。お前、社会人囲碁サークルに参加してたよな? 俺、いずみさんにそこへ参加するよう勧めるから、そこで距離を縮めろよ」
「じゃあ、頑張ってみるかな……」
馨はようやく、決意したようだった。俺はほっとした。
「毎週日曜だっけ? じゃあ早速、今度の日曜で彼女に案内するな?」
すると何故か、馨の顔は曇った。
「あー、いや、ダメだ。俺、その日は都合悪いんだわ」
「何だ、善は急げと思ったのに。じゃあ、その次の日曜にするか?」
「――ああ」
何となく歯切れの悪い馨の口調に、俺はふと違和感を覚えた。長いこと友達をやっているが、奴はあけすけな性格だ。自分の予定をはっきり言わないなんて、珍しいことだった。
しかし、疑問に思ったのも束の間、馨は話題を変えてきた。
「協力、サンキュな。それより昴太、お前は? 新しい彼氏、作る気無いのか?」
「――え」
いきなり自分に話題を振られ、俺は戸惑った。
――洋一さんに失恋して、日も浅いってのに……。まあ、元々恋が実る可能性なんて、無かったわけだけど……。
「だってさ」
馨は、やや言いにくそうに続けた。
「悪いけど、お前の恋って、これまで悲恋続きだったじゃん? 拓斗の時もそうだったし、文月九段にしたって、はっきり言って見込みは無いだろ? 大学では、そりゃ彼氏いたのは知ってるけど。でもあれも、今だから言うけど、心が通ってる感じは無かったなあ」
図星を突かれて、俺はぎょっとした。
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