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第28話 期待しちゃダメだけど、でも

 彰が指定したのは、有名な海鮮丼の店だった。  ――前から、来てみたかったところだ。  俺はうきうきしながら、メニューを広げた。 「じゃあ、この前のお返しってことで。好きなもの頼んでくれよ」  しかし予想に反して、彰が頼んだのは、海鮮丼ではなく雑炊だった。それも、鶏の雑炊だ。 「それだけでいいのか? 他にも何か頼めよ。遠慮してんのか?」 「――じゃあ」  彰は、フライドポテトを追加した。俺は首をかしげた。 「せっかく、海鮮で有名な店なのに。何で頼まないんだ?」  すると彰は、店員の方を窺いながら声を落とした。 「実は、魚介類はあまり得意じゃなくてね」 「ええ? じゃあなんでここに……」  言いかけて、俺ははっと気づいた。 「もしかして、俺が魚好きだから? でもそんな話、したっけ?」 「この前イタリアンレストランで、魚介系のパスタを頼んでたろ。サラダもそうだった。だから、そうかなって」  ――そんな細かいこと、見てたのかよ……。  俺は唖然として、彰を見つめた。 「何でそんなことするんだよ。お礼になんないだろ」 「昴太、この頃元気が無さそうな感じがしたから。メッセ―ジにも、返事が無いし……」 「――それで、俺を元気づけようとしてくれたのか?」  ――苦手な海鮮に、わざわざ付き合って? しかも俺は、奴を無視し続けてたのに……?  俺は、何だか胸が熱くなった。同時に、馨の言葉が蘇る。 『二人、上手くいきそうな予感がする』 『そろそろ、だめんず・うぉーくを止めてもいいんじゃないか』  ――だめんず・うぉーく、か。確かに、ノンケばかり好きになり続けたって、未来は無い。その点、彰なら男が好きで、俺を好きと言ってくれて……。こいつには、同棲相手がいるから、期待しちゃダメだけど、でも……。 「コロッケとじゃがバター、追加で!」  俺は、店員に向かって言った。彰が目を丸くする。そんな彰に向かって、俺はニッと笑った。 「これなら、魚じゃないから食えるだろ?」 「でも、フライドポテトも頼んでるのに、芋まみれじゃない?」 「ぜーたく言うな!」  そんな風にツッコミながらも、俺は何だか、不思議と楽しい気分だった。

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