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第30話 なぜか胸が締め付けられる
「昴太! 待てよ」
撒こうと思ったのに、彰の奴は追いかけて来やがった。人気の無い路地に入ると、俺はため息をつきながら奴の方を振り向いた。
「お前……。付いて来るなよな」
「どうして?」
「どうしてって! お前まで、ゲイばれするだろうが」
せっかくの心遣いが分からない奴め、と俺は目を吊り上げた。
「僕はそんなこと気にしないって、いつも言ってるだろう?」
俺は力が抜けるのを感じた。
「あのなあ……。有名人なんだから、ちょっとは気にしろよ。それに、浮気してるって彼氏に誤解されたら、まずいだろ?」
すると、彰はきょとんとした顔をした。
「彼氏って何のこと?」
「いや、今さら隠さなくても知ってるから……。お前と一緒に住んでる奴のこと」
言いながら俺は、なぜか胸がきゅっと締め付けられる思いに駆られた。
「彼に会ったの?」
「――うん。金、家まで持って行くって、最初言ってたろ? 実は、行ったんだ。そしたらお前はいなくて、彼が出て来て……」
「そうだったの? ――ああ、そういえばあの日は、予定より帰りが遅くなったんだよね。君に連絡しようと思っていたら、その矢先に君から、行くのは止めたって連絡が来たから……」
彰はそこで言葉を切ると、何だか意地悪そうな笑いを浮かべた。
「でも、どうしてそのこと、僕に黙ってたの?」
「ベ、別に? まあ、金は直接渡した方がいいかなと思っただけで……」
「そうじゃなくて。彼と会ったのを、僕に黙っていた理由だよ」
相変わらず笑みをたたえながら、彰はずいずい近づいて来る。俺は思わず後ずさった。
「別に、特に理由なんて……」
「ようやく分かった。それで、僕のメッセ―ジを無視してたんだ? 元気が無かったのもそのせいだね?」
「違っ! 何勝手に解釈してんだよ!」
俺は、かっと顔が熱くなるのを感じた。
「可愛いなあ……。妬いてたんだ?」
「だから違うって……」
彰が、俺の顎をくいと捕らえる。そのまま奴は、顔を近づけて来た。
――キスされる……!
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