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第36話 血が繋がってないから

 ピリピリピリ……。  翌朝、俺は彰のスマホの着信音で目を覚ました。 「昨夜? どこに泊まったっていいだろ。僕を何歳だと思ってる?」  ぼんやりと目を開けると、彰はせわしなくシャツのボタンを留めながら、誰かと電話で話していた。 「手合い(プロの対局のこと)? 分かってるに決まってるだろ。心配するな。じゃあ、もう切るよ」  電話を終えた彰は、俺に気づいたようだった。 「ああ、昴太。ごめん、起こした?」 「別にいいよ。今日、手合いだったんだ?」  俺は、目をこすりながら言った。 「そうなんだ。だから悪いけど、先に出るよ」 「うん。――今の、誰?」 「匠だよ。弟」  彰はあっさりと答えた。俺の脳裏には、彰のマンションで会った、ちょっと神経質そうな青年の姿が浮かんだ。 「手合いなのに昨夜外泊したから、不安になったみたいで……。いつまでたっても、心配性なんだよ」  彰はくすくす笑ったが、俺はふと、あの時の彼の言葉を思い出した。 『僕は、彰と一緒に暮らしている者だけど』  俺には兄弟がいないからよく分からない。でも、普通兄貴のことを名前で呼ぶだろうか、と俺は少し不思議に思った。それに、なぜそんなとってつけたような言い回しをしたのだろう。ストレートに『弟』と名乗れば済むことなのに。そう、それに……。 「なあ。お前と弟って、全然似てねえのな」  俺は、思わず疑問を口に出していた。鞄を手に取りかけていた彰の動きが、ふと止まった。 「匠とは、血が繋がってないから」  ――え。 「じゃあ、もう行くよ」  俺が聞き返す間も無く、彰はあっという間に出て行った。  

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