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第37話 勘は当たっただろ

「本当に、すまなかった!」  その夜、俺のアパートを訪れた馨は、深々と頭を下げた。 「実は、新条、俺の会社の取引先に勤めてるんだよ。仕事の場で再会したら、久々にあのメンツで会おうって誘われて。俺も本当は行きたくなかったんだけど、新条とは今後も仕事で絡むから、断り切れなくてな。まさかお前とばったり会うとは思わなかった。嫌な思いをさせて悪かったな」 「別に、お前のせいじゃねえよ」  俺は手を振ったが、馨は、まだ申し訳なさそうな顔をしていた。 「いや、あんな風に絡まれる羽目になって、申し訳ないなって。本当に、新条の奴、いじめっ子気質は変わってねえのな……。ということで、お詫びに今度の囲碁サークルで、お前のインストラクターの名刺をばらまいてきてやるよ」 「おっ、本当か? そりゃ助かる」  俺は目を輝かせた。不安定なフリーの身としては、一人でも客は欲しい。 「じゃあ頼むわ。お前も頑張れよな。いずみさん、サークルに行くって言ってたし」 「ああ、分かった……。ところで、お前」  馨は身を乗り出した。 「彰七段と一緒だったのは、どういうわけ?」 「――実はな」  俺は馨に、彰と付き合い始めたと報告した。馨は、我が事のように喜んでくれた。 「やっぱりな。俺の勘は当たっただろ? 二人、絶対に上手くいくって」 「サンキュ。ああ、でも、誰にも言うなよ? あいつは人にバレるのも気にしてないみたいだけど、そうはいっても、有名人じゃんか?」 「そうだな」  馨は、ちょっと顔を曇らせた。 「新条や他の奴らが、ベラベラ喋らないといいんだが……。俺からも、お前ら二人は何でもないと念を押しとくわ」 「うん、頼む」  そこで俺は、ふと思いついて、馨にあの疑問をぶつけてみることにした。  

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