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第41話 料理を振る舞ってやろう

 その週末、俺の元に宅配便が届いた。  ――お袋からだ。  やけに大きな荷物の中味は、野菜の詰め合わせだった。甘いもの好きの俺のために、スイーツも何種類か入っている。荷物には、母親からの手紙が添えられていた。 『昴太。元気でやっていますか? 隆之(たかゆき)さんの実家から野菜を沢山いただいたので、昴太にも送ります。健康に気を付けて、仕事頑張ってね。それから、たまには、顔を出すように』  隆之さんというのは、俺の義理の父親だ。俺に囲碁を教えてくれた実の父親は、俺が小五の時に他界した。母親はそれ以来、シングルマザーとして頑張って俺を育てたが、俺が就職すると同時に再婚した。  そしてそれと同時に、俺は家を出た。せっかく家から通える職場に決まったのにどうして、と母親は寂しがったが、俺は反対を押し切った。別に、母親の再婚に反発した、とかそんな幼稚な理由じゃない。むしろ逆だった。  ――義理の父親に、俺がゲイだとバレたら。  俺は、ひたすらそれが怖かったのだ。再婚相手の隆之さんは良さそうな人だった。ずっと苦労してきた母親だが、彼と一緒にいる時は本当に幸せそうだった。それなのに、義理の息子がこんな性癖だということで再婚話がおじゃんになったら、と思うと、恐ろしくてとても一緒には暮らせなかったのだ。こうして、俺は家を出ることに決めた。  とはいえ、塾を辞めてフリーになった時は、俺もさすがに不安を覚えた。実家に戻るべきか随分迷ったが、俺は一人暮らしを続ける道を選んだ。幸い、努力して得た数人の生徒と、『文月』での週三日の勤務のおかげで、現在は何とかなっているのだ。  ――それにしても、この量は多すぎだろ。  俺は野菜の山を見つめて、腕組みした。不在がちな母親に代わって家事を受け持ってきた歴史から、自炊は苦にならない。しかし、さすがに俺一人で食べきる自信は無かった。  ――そうだ。  俺は、良いアイデアを思いついた。彰を招いて、料理を振る舞ってやろうと思ったのだ。俺があいつに奢ってやったといえば、海鮮丼の店くらいで、他は奴に出してもらってばかりだからだ。それにその店でも、結局あいつはあまり食べていなかった。  ――魚は苦手と言ってたけど、野菜なら大丈夫だろ、多分。  俺は早速、彰にメッセ―ジを送ることに決めた。

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