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第44話 普段から、あれくらい可愛けりゃいいのに
「昴太?」
彰が、怪訝そうに顔を上げる。俺ははっとした。
「どうしたの? 何だか、赤い顔してるけど」
「べ、別に……」
――馬鹿か、俺は。何考えてんだよ……?
彰は、そんな俺を見て、意味ありげに笑った。
「もしかして、この前のこと、思い出してたの?」
「違う!」
だが彰は、石を碁笥に戻すと、座ったまま俺の隣に移動してきた。
「僕は、今まさに思い出しているけどね」
「思い出さなくていい!」
「どうして? あんなに可愛かったのに」
彰は俺の顔を覗き込むと、前髪を軽くつまんで、指に巻き付けた。
「昴太、抱かれてる時は、すごく素直になるんだね。普段から、あれくらい可愛けりゃいいのに」
俺は真っ赤になって、思わず目を逸らした。
「それを言うなら、お前だってそうだろうが! 普段はクソむかつくのに……」
――エッチの時は、すごく優しい……。
「僕はいつだって優しいよ?」
「嘘つ……」
俺の言葉は、彰のキスで遮られた。少し乾いた熱い唇が、俺の唇に何度も押し付けられる。一瞬流されかけて、俺は慌てて奴を押し退けた。
「止めろって。隣の部屋に弟、いるだろうが……」
「昴太が静かにしていれば、気づかれないよ……。ああ、無理かな? 声を我慢するの、苦手だものね?」
「お前な……!」
今度こそ、ベッドの上での記憶が鮮明に蘇り、俺はカーッと顔を熱くした。俺は彰を振り払おうとしたが、奴は逆に俺の腕を捕らえ、自分の胸に抱き込んだ。
「昴太……」
再び唇が近づいて来た、その時。コンコンと、ノックの音がした。俺たちは、バッと離れた。
「何?」
彰が応答する。すると匠さんが、遠慮がちに顔を覗かせた。
「邪魔をしてごめん。兄さん、棋院から電話」
「分かった。昴太、ちょっと待っててくれ」
彰が席を外すと、代わりに匠さんがするりと部屋に入って来た。
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