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第48話 夕食をご馳走して欲しい

「風間さん、今日はお世話をかけてすみませんでした」  待合室で待つうち、少し落ち着いてきたのか、匠さんはか細い声で俺に謝った。 「何言ってるんですか。俺こそおたおたしちゃって、あまり役に立てなくて」 「とんでもない……。それに、せっかくの兄との時間を、奪ってしまって」 「匠さんが謝る必要は無いですよ。それに彰、仕事のトラブルもあったみたいだし」  ちょっと赤くなりながら、俺は否定した。すると匠さんは何と、もう帰ってくれ、と言うではないか。 「ええ? 彰が来るまで、俺ここにいますよ。心配だし」 「いえ、大分落ち着いてきたんです。病院に来たという安心感かな」  確かに、匠さんの顔色は、かなりましになっていた。 「ここ、長いこと待たされますよ。それに治療も、いつも決まったことをするだけですから。風間さんにいてもらう必要は無いです」  俺は心配したが、匠さんは大丈夫だと言い張った。 「そう……? じゃあ、気をつけてくださいね」  彰にメッセ―ジを送って、俺は病院を後にした。  帰宅すると、彰から電話がかかってきた。 「昴太、今日は悪かったね。匠ならすっかり落ち着いたから、安心して」 「そりゃ良かった」  俺は、ほっと胸を撫で下ろした。 「それで、ちょっと見て欲しいんだけど。昴太の鞄に、匠の棋譜が紛れ込んでいない?」 「匠さんの棋譜?」 「匠が、鞄に昴太の手帳や書類が混じってるって言い出して。ぶつかって、鞄を落としたことがあったんだって?」 「――ああ、そういえば」  俺は、タクシーから降りた時のことを思い出した。あの時、中味を適当に拾い集めたから、互いのものが混ざってしまったのだろう。 「今から、昴太の家へ行っていい? 匠、自分で行くって言い張ってるんだけど、さすがに安静にさせないといけないからね」 「なら、俺がそっちへ行くよ。匠さんに、付いててあげた方がいいだろう?」 「いや、匠ならもう大丈夫だから。――実を言うと、昴太の部屋に行ってみたいんだよね。ついでに、夕食をご馳走して欲しい」 「お前、厚かましいな」  俺は思わず笑った。 「だって、もともとは昴太が、夕飯を食べに来いって誘って来たんじゃないか」 「はいはい……。じゃあ、作って待ってるよ」  苦笑いしながら電話を切った俺は、部屋を見回した。  ――ちっと、片付けるか……。

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