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第49話 継母にいじめられてたんかな
「へえ、意外と片付いてるんだね」
俺の部屋に上がった彰は、開口一番言った。
「意外と、って何だよ……」
俺はむくれてみせたが、大慌てで掃除したのは本当だ。今日訪れた彰の部屋は、整然と片付いていた。あれを見た後で、自分の部屋の惨状を見せる度胸は無かったのだ。
「オムレツと肉野菜炒め、できたとこだぞ。肉は豚。お前、平気か?」
「昴太の作るものなら、何だって頂くよ」
彰はローテーブルの前に、ぴんと背筋を伸ばして正座した。これが馨なら、だらしなく胡坐をかくところだ。俺は改めて、こいつの行儀の良さを実感した。
「いい加減なこと言うな。魚介はダメって、言ってたくせに」
「ああ、あれね。別に、食べられないというわけでもないんだけど……」
彰はちょっと顔をゆがめた。
「実家にいる時に嫌というほど食べたから、食傷気味なだけだよ」
――実家。
俺は、彰の複雑な家庭環境を思い出して、一瞬押し黙った。そんな俺に気づいているのかいないのか、彰は淡々と続ける。
「僕が本当にダメなのは、甲殻類だけなんだよね。アレルギーで」
「アレルギー?」
「うん。小さい頃に蟹をうっかり食べて、ひどい目に遭ったんだよ。以来、魚介類全般に何となく抵抗があったんだけど……。そうしたら母が、これでもかとばかりに、使用人に命じて魚を食卓に出させたものだから……」
――やっぱり、継母にいじめられてたんかな……。
俺は内心思った。夫の愛人の子なんて、優しくできるわけが無いだろう……。
「アレルギー騒動のことは、知っているはずなのにね。偏食だと思われるのが嫌で、意地になって魚を食べ続けたら、さすがにうんざりしてしまった」
俺は返答に困った。彰の方はけろりとした様子で、俺の作った料理をぱくぱく食べている。
「どれも、美味しいね。昴太、いつでもお嫁に行けるんじゃない?」
「アホか、お前……」
お決まりのフレーズを返しながらも、彰が幸せそうな顔をしていることに、俺は何だかほっとしたのだった。
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