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第57話 完全にやばい、色んな意味で

「はっ? シングルで予約してたはずなんですけど」  俺はきょとんとした。しかしフロントマンは、首を横に振った。 「いえ。風間昴太様、ツインでご一泊ということで承っておりますが」  念のために予約番号を伝えても、結果は同じだった。  ――何かの手違いかな……。  洋一さんの金で泊まらせてもらうのに、それでは申し訳ないだろう。俺は、シングルに変えてもらえないかと頼んだが、満室との答が返って来た。仕方なく、俺はチェックイン手続を済ませた。このことを連絡しようと洋一さんに電話をかけたが、繋がらない。きっと、忙しいのだろう。  いつまでもロビーで待つわけにもいかず、俺は取りあえずそのツインの部屋に入った。もう一度洋一さんに電話をかけようとしたその時、コンコンというノックの音が聞こえた。  ――洋一さんかな? 間違いに気づいたとか?  しかし、勢いよくドアを開けた俺は固まった。そこに立っていたのは、いずみさんだったのだ。 「綾瀬さん? どうして……」  なぜ彼女がこの部屋番号を知っているのか、という疑問が頭をかすめる。いずみさんは動揺する俺に構わず、にっこり笑った。 「風間先生? お邪魔してもいいですか?」 「いやいやいや! それは……」  実態はゲイでも、まさか若い女の子を部屋に入れるわけにはいかない。断ろうとしたその時、俺は心臓が止まりそうになった。『文月』の常連の男性客のグループが、廊下を通りかかったのだ。彼らは俺たちを見て、おっという顔をした。  ――まずい! 「あれえ、風間先生と、いずみちゃんじゃない」  案の定彼らは、好奇心丸出しで近寄ってきた。 「へえー、知らなかったな。二人、いつから?」 「違いますって!」  俺は必死になって否定したが、彼らが信じていないのは明らかだった。 「またまた~。ここ、ツインのエリアだよね? いいねえ、仲が良くて」  ――完全にやばい、色んな意味で。  いずみさんは、なぜか否定しようとしない。俺が半泣きで言い訳を探していたその時、俺のよく知る声がした。 「昴太と一緒に泊まるのは、僕ですよ」  現れたのは、ここにいるはずの無い彰だった。

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