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第61話 一生逃げられないんじゃないか

「何だよ?」 「いや、昴太は本当に騙されやすいなあと思って。結局、お金につられたわけだ?」  本当のことではあるが、俺はむっとした。 「しょうがねえだろ! 不安定なフリーなんだから、仕事のチャンスがあれば飛びつかないと。――それに洋一さんは、俺の雇い主だし。断りづらいだろうが……」 「ああ、ごめん、そうだよね。無神経な言い方をして悪かったよ……。そこにつけ込むなんて、文月九段はとことん悪党だな」  彰は、珍しく素直に謝った。 「まあでも、俺にも意地があるからな。日当二万と、宿泊交通費は、叩き返してやる」 「じゃあ昴太、新幹線代とホテル代、自腹になるけどいいの?」 「う……。そりゃ出費はきついけど、ホイホイもらいたくなんかねえよ」 「それじゃあ」  彰は何故か、目を輝かせた。 「ホテル代の半額、僕が出すよ」 「――何で、お前が?」  俺は目を丸くした。 「だって、今晩僕は、この部屋に泊まるからさ」 「おい、何でだよ!」  俺は目を剥いたが、彰はけろりとしている。 「何ではこっちの台詞だよ。どうしてわざわざ、恋人と別の部屋に泊まらないといけないの? それにこのホテル、もう満室なんでしょ? 僕は泊まる場所が無いんだけど?」 「お前な……。宿泊場所も確保せずにここまで来たのかよ? 泊まる所が無かったら、どうするつもりだったんだ?」 「だって昴太の部屋に泊まるつもりだったもの。もしそこに文月九段がいたら、叩き出す予定だったし」  ――何なんだよ、この行動力……。  もしかして俺は一生こいつから逃げられないんじゃないか、という不吉な予感が俺を襲う。そんな俺を、彰はぎゅっと抱きしめた。 「文月九段にも一つだけ感謝かなあ。こうして、昴太と同じ部屋に泊まれるから……。まあ、シングルでも、それはそれでよかったけどね。昴太と密着できるし……」  言葉の合間に、彰はちゅっちゅっと俺に口づける。 「ん……。んっ、ちょっと待てって。俺、洋一さんに金を返しに行かなきゃ……」  彰の腕から逃れようともがくが、奴に放してくれる気配は無い。 「明日でいいじゃない。せっかくここまで来たんだ、今夜は旅の楽しみを満喫しようよ。今から、ここの天然温泉に行かない? この時間は、空いているらしいよ」  ――何ばっちり調査してんだよ。

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