69 / 168

第69話 思考回路、意味不明なんだけど

 あれから数週間後。俺は、自宅で宣伝用SNSの更新作業をしていた。  あの直後、俺は『文月』を辞めた。由香里さんはとても残念がってくれて、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。とはいえ、本当のことを話すわけにはいかないから、彼女には『親の具合が悪くて、実家に戻って世話をしなければいけなくなった』という嘘を言って押し通した。  『文月』の収入が無くなった分、生徒を獲得しなければならないのだが、状況は思わしくない。喧嘩別れする前に、馨が囲碁サークルで俺の名刺を配ってくれたおかげで、指導の依頼自体は何件か入った。しかし、結局条件が折り合わず、契約成立には至らなかったのだ。  ――馨、といえば。もう仲直りは無理なのかなあ……。  あいつには、謝罪のメッセ―ジを何通も送ったが、無視されている状態だ。もう俺は、見放されたのかもしれなかった。  ――彰にも、会えてないし……。  今は仕事優先、という事情を彰も分かってくれているから、奴も誘ってきたりはしない。しかし、ぴたりと誘いが無くなれば、それはそれで不安になる。気が付けば俺は、口に出して呟いていた。 「あいつ、浮気してねえだろうな」 「それ、僕のこと? 僕が浮気なんかするわけないだろう?」  俺は思わず、ぎゃっと声を上げた。振り返ると、やっぱり彰本人だった。いつの間にか、家に入って来ている。 「お前なっ。何勝手に入って来てるんだよ!」 「一応、声はかけたけど。集中していて気づかないみたいだったし。それより、玄関のドア開けっ放しは、危険じゃない?」  まだ残暑は厳しい。暑いが、かといって今の状況ではエアコン代すらもったいなく、俺は窓とドアを全開にしていたのだ。 「電気代節約だよ。女じゃあるまいし、別に危険てことも無いだろ」 「そうかなあ。僕は、昴太が心配だけど」  彰は勝手に部屋に上がり込むと、座り込んだ。 「その気のある男に襲われるかもしれないじゃないか。あるいは、女の子と間違えて襲おうとして途中で男と気づいたけど、でも昴太が可愛すぎて、突然その気を起こすという可能性もある」 「お前の思考回路、意味不明なんだけど」  もはや付いて行けねえ、と俺はため息をついた。 「で、突然どうしたんだよ?」

ともだちにシェアしよう!