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第76話 殺されるかもしれない

 その時、俺のスマホが震えた。見ると、画面上には数字が並んでいる。登録していない番号ということだ。  ――新規の生徒かな? なら、ラッキーなんだけど……。  しかし俺は、一瞬出るのを躊躇った。登録していないにもかかわらず、俺はその番号に何だか見覚えがあったのだ。  ――まあいいか、取りあえず出てみよう。  俺は、匠さんに断って席を外すと、電話に出た。 「はい、風間……」 「風間! 良かった」  耳に飛び込んで来た声に、俺はドキリとした。それは、拓斗だった。  ――何で? ああ、また会いたいとか、連絡するとか言ってたっけ。二人きりでなければ問題無いとか、誤解してたっぽいし……。  きっぱり断ろうとしたその時、拓斗はとんでもないことを言った。 「助けてくれないか? 俺、殺されるかもしれないんだ」 「殺……!? どういうことだよ?」  拓斗の口調は、真剣そのものだ。俺は思わず聞き返していた。 「今、○○にいるんだけど、ヤバイ連中にボコボコにされて……。動けねえんだ。頼む、助けに来てくれないか? こんなこと、他の奴に頼めないんだよ」  拓斗が告げた場所は、都内の有名な繁華街だった。この会場からも近い。しかし、俺は迷った。彰は、俺に観ていて欲しいと言っていた。  ――途中で抜けるわけには……。  ためらう俺に向かって、拓斗は悲痛な声で訴える。 「急にこんなことを頼んで、本当に悪い。でも、一生の頼みだ。来てくれないか? 事情は後で説明するから。あいつらが戻って来たら、俺、今度こそ殺される……」 「分かった」  俺は、仕方なく頷いた。  ――ちょっとの間だけだ。近いんだし、すぐ戻ればいい……。  俺は匠さんに、事情は伏せてすぐ戻るとだけ告げ、会場を後にした。  

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