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第77話 家へ連れてってもらえないか

 駆けつけた俺は、息を呑んだ。人気の無い路地裏で、拓斗はボロボロの姿で倒れていたのだ。顔は腫れ上がり、服は破けて手足は痣まみれで、一目で暴行を受けたと分かった。 「速水! 何があった?」  慌てて駆け寄ると、拓斗は気が付いたように目を開けた。 「ありがとう……。来てくれて」 「一体どうしたんだ? カツアゲにでもあったのか?」  拓斗はゆっくりと身体を起こすと、かぶりを振った。 「違うんだ。実は、うっかり闇金に手を出して、返せなくてこのありさまだ」 「闇金? 何でまたそんなものに」  俺は眉を寄せた。すると拓斗は、悲しげに目を伏せた。 「俺が馬鹿なんだよ……。この前、会社の先輩に飲みに連れて行かれたんだけど、そこがいわゆるぼったくりバーでな。ものすげえ額を請求されたんだよ。先輩は、とっとと逃げちまうし……。払えないと言ったら、じゃあここで金を借りろと怖い連中に言われて……」 「そこが、闇金だったわけか?」  うん、と拓斗は頷いた。 「利息はあっという間に膨れ上がるし……。俺も貯金をはたいて何とか返したんだが、さすがに全額は返せなくてな。そしたらこんな目に」 「ひどい話だな」  俺は拓斗に同情した。 「取りあえず、病院行くか?」 「いや……。正直、病院代も無いんだ」 「じゃあ、家で手当てするか?」 「ええと……。それも、ちょっと」  拓斗は何故か、困ったような顔をした。 「俺んとこのアパート、大家がうるさくてな。こんな格好で帰ったら、目を付けられる。よかったら、風間ん家ちへ連れてってもらえないか?」  弱ったな、と俺は内心思った。ここから俺のアパートまでは、結構離れている。彰の終局(碁を打ち終わること)までに帰れないかもしれない、という思いが頭をかすめたのだ。しかし、拓斗はすがるような眼で俺を見つめている。 「分かった。タクシーで俺んちへ行こう」  仕方なくそう言うと、拓斗はすまなさそうな顔をして、悪いな、と言った。

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