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第80話 こんなことでたらめです
「実は最近、見知らぬ人から私にこんなメールが送られてきたんだよ」
呆然とする俺に構わず、宮川さんは淡々と語り始めた。
「風間先生はゲイで、指導に行った家でも生徒やその家族の男性を誘惑して回っている、と。私も、最初そのメールを読んだ時はまさかと思った。でもメールには、こうも書いてあったんだ。自分は風間先生を昔からよく知っている、だからこそご忠告差し上げるんだと。疑うならば、先生にこの質問をしてみろと書いてあった。さっき聞いた二つは、それだ」
「そのメール、見せて下さい!」
宮川さんは、俺にスマホの画面を見せてくれた。メールの差出人は不明。誰でも作れるようなフリーアドレスからだった。本文を読むうちに、俺は血の気が引いていった。
メールには、嘘八百が書き連ねてあったのだ。『中学時代から同級生や教師を誘惑していた』『現在も複数の男性と乱れた関係にある』『指導先では、生徒が若い男性なら本人を狙い、そうでない場合はその家の小中学生に猥褻行為をする』などなど。内容は過激だが、心配しているからこそ忠告するのだ、というスタイルはあくまでも一貫していた。文章も、非常に論理的かつ理知的だった。悪質ないたずらだ、と無視するのをためらわせるくらいに。
メールの最後には、ご丁寧にも、『代わりに推薦する』という他のインストラクターの名前が列挙されていた。いずれも元院生(院生:囲碁のプロ棋士を養成する機関に所属する子供のこと)など、俺よりも優秀で、しかも料金は同じくらいの連中だ。
――最近断ってきた二人も、同じメールを読んだのだろうか。そういえば、どちらの家にも小さい男の子がいた……。
「こんなこと、でたらめです!」
俺は必死に、宮川さんに訴えた。そりゃゲイなのは本当だけれど、これじゃまるで色情狂じゃないか。俺がこれまで関係を持ったのは、大学時代に初めてできた彼氏と、彰の二人だけだ。もちろん、生徒やその家族に手を出したことなんて、あるはずも無い。しかし宮川さんは、なおも疑わしそうだった。
「でも、男性が好きなのは確かなんだよね? だってこれ、先生の声でしょ?」
メールには、音声ファイルが添付されていた。宮川さんが、再生する。その瞬間、俺はその場に凍り付いた。
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