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第81話 誰かに恨まれてる

『今日は俺が、全部してやる』 『お前だって、興奮してるんだろうが……』 『やっ。ちょっと、待っ……』 『も、無理……あっ……』  それは紛れも無く、彰とのエッチの時の俺の声だった。続いて、明らかに男同士と分かる二人分の荒い息づかいと、うめき声。彰の吐いた台詞は、上手く編集したのか、カットされていたが。  宮川さんは、途中で音声を止めた。気恥ずかしいというよりは、気持ち悪かったのだろう。 「その……今のは、俺の声です。これは、彼氏とした時ので……。何でこんなものが流出したんだろう……」 「じゃあ、男性が好きなのは本当なんだね?」 「はい……。でも俺は、彼氏一筋です。生徒さんやご家族に言い寄るような真似は、誓ってしていません!」  すると宮川さんは、つめていた息をふっと吐いた。 「まあ、風間先生とは長い付き合いだからね。先生が真面目な方なのは、よく知っている。だから、契約を打ち切るようなことはしないよ。でも、孫の件は無かったことにしてくれるか? 信用しないようで、申し訳ないけれど」 「――分かりました」  俺はうつむいた。宮川さんの孫は、中一の男の子だ。そう判断されても仕方ないだろう。宮川さん本人との契約を切られなかっただけ、ましだと思うしかなかった。  いつも通りに指導を終えて、俺は宮川さん宅を後にした。頭の中は、誰がこんな嫌がらせをしたのかで一杯だった。  ――俺、誰かに恨まれてる……? それも、身近な人間に……?  一瞬、洋一さんかとも思った。でも、不倫の件は誰にも漏らさずに辞めたし、今さら彼が俺に嫌がらせするだろうか、という気もする。  ――この前再会した、高校の時の新条?   それも、違う気がした。あいつは陰険だけど、ここまで手の込んだことをするほど暇だとも思えない。それに奴とは、高校からの付き合いだ。メールの送り主は、俺の中学時代のエピソードまで知っていた……。  そこまで考えて、俺ははっとした。添付されていた音声は、俺の家でエッチした時のものだと気が付いたのだ。  ――つまり犯人は、俺の家を盗聴したってことだ。俺の家に出入りしていた人間で、俺を昔からよく知る人物……。  いや、まさかあり得ない、と俺は、一瞬浮かんだ恐ろしい考えを否定した。馨が、そんなことをするはずは無いではないか……。

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