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第83話 絶体絶命だ

  ――何だって。  俺は一瞬、頭が真っ白になった。女性は面倒くさそうに電話を切ろうしたが、俺は必死に食い下がった。 「辞めて、今どこにいるか分かりませんか? 実は僕、彼に金を貸してるんです。万一の時は会社に来てくれと、そう言われていて……」  すると女性は、何やら上司に相談し始めた。しばらくして、拓斗の元上司という中年女性が現れた。何だか、うんざりしたような表情を浮かべている。女性は俺に、驚くべきことを告げた。  何と拓斗は、会社の金を使い込んで行方をくらましたのだという。どうやらギャンブルに狂っていたらしく、複数の同僚から借金もしていたらしい。 「行方なら、こちらが知りたいところだわ」  女性は、ため息をついた。 「警察には……?」 「ええ、もちろん届けました。でも、たとえ彼を見つけても、支払い能力が無ければ取り戻せないでしょうね」  俺は、拓斗から聞いたぼったくりバー云々の話をした。 「嘘でしょうね。逆に、彼に金を貸して踏み倒されたという社員ならたくさんおりますけどね」  ――警察に相談するのを嫌がったのは、そのせいか。アパートも、きっとあの時点で引き払っていたんだろう……。  がっくりと肩を落としながら、俺は会社を後にした。拓斗を捕まえて何としても金を返させないといけないが、携帯番号を変えられた以上、連絡の取りようが無い。あいつと仲のいい新条なら知っている可能性もあるが、奴に聞きたくは無かった。もちろん、馨にも聞けない。都合のいい時だけ頼るなんて、できるわけが無かった。  ――絶体絶命だ。  三十万の貯金は消え、三人の生徒から契約を切られ、新規契約の見込みは立たない。もう、家賃も払えない状況だ。  ――実家に戻るか。  背に腹は代えられず、俺は決断した。お袋は、フリーの身の俺を心配して、いつでも戻ってくればいいと言ってくれている。義理の父親の隆之さんには申し訳ないが、こうなった以上は一時的に戻るしかなかった。  ――落ち着いたら、また家を出るとして……。  そんなことを考えながらアパートに戻った俺は、はっとした。部屋の前に、馨がいたのだ。 「昴太。お前に謝りたくて来た」  馨は、俺の目を見つめてはっきりとそう告げた。

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