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第102話 どれだけ周到な罠を張り巡らせたんだ

「お前こそ、友達なんかいないくせに……」  悔し紛れに言い返してみたものの、俺の声は震えていた。こいつはどれだけ周到な罠を張り巡らせたのだろうと思うと、恐ろしくなったのだ。 「ええ、いませんよ。友達なんか欲しいと思わない。僕には、兄さえいればいいんだから」  何を言おうが、匠に動じる様子は無かった。どうやら、もうしらばっくれるのは止めたらしく、奴は開き直ったようにぼやき始めた。 「しかし、僕としたことが、若干ヨミ違えたなあ……。まさかあなたが、文無しになって恋人の家に転がり込むほど情けない人間だとは思わなかったんでね。嫌がらせするつもりが、わざわざ同居のきっかけを与えるなんて、これは失着(囲碁で、まちがった手を打つこと)だった」 「何だと!」 「それに兄も……。まさか、昔の口約束を真に受けて、僕を追い出そうだなんて」  匠の目が、冷たく光る。俺は、思わずぞくりとした。硬直している俺を見て、匠は不敵な笑みを浮かべた。 「出て行くわけないじゃないですか。僕が兄と離れるなんて、あり得ませんよ」 「お前、まさか……。病状が悪化したってのは、嘘か? ――最初の発作も?」  我慢できないといった様子で、匠がげらげらと笑い出す。俺はかっとなった。 「お前な! 彰がどんだけお前のことを心配したと思ってんだよ!」 「兄を手に入れるためなら、このくらいの嘘はどうってことありませんよ。それに、兄に心配されるのは、心地良い……」  匠の表情は、どこか恍惚としていた。頭に血が上った俺は、匠につかみかかると、奴のスマホを奪い取った。 「こんなもの、ぶっ壊してやる! おぞましい!」 「壊すんですか? ご自由に」  ――え。

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