103 / 168
第103話 これからも盗聴するってことかよ
匠は、けろりとした調子で続けた。
「兄が帰って来たら、僕は正直に報告しますよ? あなたに、スマホを壊されたってね。その理由を、どう説明するんです? 僕があなたに嫌がらせしたという証拠は、何一つ無いじゃないですか。唯一僕に不利なあの音声は、このスマホに入っている。それをわざわざ消してしまって、どうするんです? やっぱりあなたは馬鹿だな」
――畜生……。
俺がためらった隙を見逃さず、匠は素早く俺からスマホを奪い返した。同時に、ぼそりと呟く。
「それに、仮にこれが消されても、音声はいくらでも入手できる……」
――それって、これからも俺たちの声を盗聴するってことかよ……。
その時、ズボンのポケットの中で俺のスマホが震えた。
「○インが来たみたいですね」
匠は、俺のポケットに手を伸ばすと、ひょいとスマホをつまみ上げた。
「何すんだ! 返せよ!」
「そっちだって僕のを取り上げたんだから、おあいこでしょう」
俺は慌ててスマホを取り返そうとしたが、匠の奴もなかなか手強かった。もみ合っているうちに、スマホは床に落ちた。画面上に、一通のメッセ―ジが表示される。俺はぎょっとした。
『さっきはいきなりキスなんかしてごめん。謝りたくて……』
差出人は影山徹郎と、ばっちり表示されていた。青ざめる俺を見て、匠はにやりと笑った。
「へえ……。この人、ほのか幼稚園の先生でしょ? 今日は飲み会って言ってたけど、そんなことしてたんですね。恋人が仕事で留守にするなり浮気するなんて、天性の淫乱なのかな、あなたは。そういえば、ベッドでもみっともない声を上げまくってましたもんね」
「違う!」
というより、いつの間に影山さんのことまで調べていたんだ、という思いが俺の脳裏をよぎる。
――また、俺の仕事を妨害する気か……?
俺はスマホを引っつかむと、匠の部屋を走り出た。自分の部屋に駆け込み、ベッドにもぐりこむ。目を閉じて眠ってしまおうとするのに、今日知った衝撃的な事実が、次々に脳裏に浮かんでくる。とうとう俺は、朝まで一睡もできなかった。
ともだちにシェアしよう!