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第103話 これからも盗聴するってことかよ

 匠は、けろりとした調子で続けた。 「兄が帰って来たら、僕は正直に報告しますよ? あなたに、スマホを壊されたってね。その理由を、どう説明するんです? 僕があなたに嫌がらせしたという証拠は、何一つ無いじゃないですか。唯一僕に不利なあの音声は、このスマホに入っている。それをわざわざ消してしまって、どうするんです? やっぱりあなたは馬鹿だな」  ――畜生……。  俺がためらった隙を見逃さず、匠は素早く俺からスマホを奪い返した。同時に、ぼそりと呟く。 「それに、仮にこれが消されても、音声はいくらでも入手できる……」  ――それって、これからも俺たちの声を盗聴するってことかよ……。  その時、ズボンのポケットの中で俺のスマホが震えた。 「○インが来たみたいですね」  匠は、俺のポケットに手を伸ばすと、ひょいとスマホをつまみ上げた。 「何すんだ! 返せよ!」 「そっちだって僕のを取り上げたんだから、おあいこでしょう」  俺は慌ててスマホを取り返そうとしたが、匠の奴もなかなか手強かった。もみ合っているうちに、スマホは床に落ちた。画面上に、一通のメッセ―ジが表示される。俺はぎょっとした。 『さっきはいきなりキスなんかしてごめん。謝りたくて……』  差出人は影山徹郎と、ばっちり表示されていた。青ざめる俺を見て、匠はにやりと笑った。 「へえ……。この人、ほのか幼稚園の先生でしょ? 今日は飲み会って言ってたけど、そんなことしてたんですね。恋人が仕事で留守にするなり浮気するなんて、天性の淫乱なのかな、あなたは。そういえば、ベッドでもみっともない声を上げまくってましたもんね」 「違う!」  というより、いつの間に影山さんのことまで調べていたんだ、という思いが俺の脳裏をよぎる。  ――また、俺の仕事を妨害する気か……?  俺はスマホを引っつかむと、匠の部屋を走り出た。自分の部屋に駆け込み、ベッドにもぐりこむ。目を閉じて眠ってしまおうとするのに、今日知った衝撃的な事実が、次々に脳裏に浮かんでくる。とうとう俺は、朝まで一睡もできなかった。

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