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第107話 こんなに、好きなのに

「何すんだよ!」 「せっかく二人きりなのに、どうしてわざわざホテルなんか行かなきゃいけないの」  ――二人きりじゃねえんだよ……。  だがそうは言えず、俺は懸命に彰の身体の下から這い出ようとした。しかし奴も、意地になったように俺を押さえつけてくる。 「それに、僕は今すぐ昴太を抱きたい……」 「彰! 頼む。今ここでは……」 「嘘ばっかり。これだけ硬くさせておいて?」  彰にそこを握られ、俺はうっとうめいた。  ――でも、ここで流されるわけには……。 「嫌なんだよ!」  大声でわめくと、彰の顔色がさっと変わった。 「僕に触られるのは嫌ということ? あの影山って男には触らせてたくせに?」  ――何、根に持ってんだよ……。  俺は力を振り絞って抵抗したが、それは彰の怒りに火に油を注いだだけのようだった。奴は、俺の両手首を片手でまとめてつかむと、頭上に押さえつけた。俺の足に足を乗せて動きを封じ、もう片方の手で乳首を弄り始める。 「も……。やだ……」  遂に、俺の瞳から涙がぽろりとこぼれた。ふと、彰の動きが止まる。 「泣くほど嫌?」 「……」  彰が、俺の拘束を解く。奴はそのまま、静かにベッドから降りた。 「分かった。もうしないよ。無理なことをして悪かった」  彰は服を身に付けると、まだ裸で横たわったままの俺に、シャツをかけてくれた。俺は、ぎゅっと胸が締め付けられるような思いに駆られた。  ――嫌なわけないじゃんか。こんなに、好きなのに……。 「お互い、一晩頭を冷やそう。僕は匠の部屋で寝るから、君はここで寝るといい」  はっとして彰の顔を見上げると、奴は苦しそうな表情を浮かべていた。 「何で……」 「二人とも、一人になった方が冷静になれると思うから。それじゃ」 「待てよ!」  ――匠の部屋なんか行くなよ! お前があいつのベッドで寝るなんて嫌だ!  しかし、それは口には出せなかった。呆然とする俺を残して、彰は部屋を出て行った。俺は、彰がかけてくれたシャツを握りしめて、ベッドの上で膝を抱えた。  ――何だよ。何で、こんな風になるんだよ……。  せめて彰を感じていたくて、俺は自分のベッドを出ると、彰のベッドに横になった。大好きな彰の匂いに包まれて、俺はもう一度涙を流したのだった。

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