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第109話 君と付き合う男性は、気が気じゃなくなるんだよ
「昴太くん。これ、何?」
影山さんは、何故か蒼白な顔をしている。彼が見つめていたのは、俺の手首の青痣だった。
――昨日、彰に力任せに押さえつけられたから……。
「やっぱり、DVじゃないか! 暴力を振るわれてるんだね?」
「違……」
「でも、これをやったのは、彰七段だろう?」
どう言い訳しようか思案していると、影山さんは目を吊り上げた。
「もしかして、無理やり抱かれたの?」
俺は、かっと顔を赤くした。
「違いますって! ――嫌だって言ったら、止めてくれましたし」
「昴太くん」
影山さんは、俺の手を取ってソファに座らせた。
「それは、立派な強姦未遂だよ? 法律上、強姦罪は男女間にしか適用されないけれど、男同士だって犯罪なことに変わりは無い。昨日はたまたま止めてくれたかもしれないけれど、日常的にレイプされるようになったらどうするの?」
――何だよ、その大げさな話……。
俺が困惑していると、影山さんはふっとため息をついた。
「まあ、それはちょっと言い過ぎかもしれないけど。でも、気を付けるに越したことはないからね。俺が思うに、彰七段は不安なんだと思うよ。ちゃんと君に愛されてるのかって。――秋野もそうだった」
「亮佑?」
突然登場した元彼の名前に、俺は戸惑った。
「うん。秋野の奴、本気で昴太くんに惚れてたからね。でも、昴太くんの方はそうでもないみたいだって、随分悩んでたよ?」
「そんなはずないですよ。だって、好きな奴ができたから別れたいって言い出したのは、亮佑ですよ?」
まさか、と俺は思った。そりゃ、亮佑を真剣に好きだったかと言われると、自信を持って頷くことはできない。正直、同類だという仲間意識の方が強かったと思う。でもそれは、亮佑も同じだったんじゃないのか……。
「確かにそうだ。でもそれはね、秋野の狂言だったんだよ」
「狂言?」
俺は目を見張った。
「あいつ、昴太くんに愛されているのかどうか、自信が無かったみたいなんだ。だからそう言って、君を試したんだよ。でも昴太くんは、あっさり別れ話に応じただろう? だから秋野の奴、かなりしょげてたよ」
――そうだったんだ。
俺は、三年越しの真実に、ただ驚いていた。
「昴太くんは、魅力的だからなあ」
影山さんが、そっと俺の手を握る。
「だから、君と付き合う男性は、皆気が気じゃなくなるんだよ。秋野も、それに彰七段も……」
「僕がどうかしましたか」
リビングのドアが開く音とともに耳に飛び込んで来たのは、彰の鋭い声だった。
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