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第110話 何でもあいつに話すんだな
「お前、今日手合いじゃ……」
「相手が急病で不戦勝だよ。それより影山さん、あなたは僕の家で何をなさってるんですか」
彰は、影山さんの元につかつかと近寄ると、ぎろりと彼を見据えた。
「ああ、怖いなあ……。いつもそうやって、昴太くんを脅してるんですか?」
「何をしていると聞いている! 人が留守の隙にこそこそやって来て、挙句に手まで握って。昴太が僕の恋人だって、分かっているのか!」
手を握られたのを見られていたのか、と俺は縮みあがった。彰は、すさまじい目つきで影山さんをにらみつけている。もはやいつもの冷静さも、年長者に対する敬意すらも、彰からは消え失せてしまったようだ。
「あなたがそんな風だから、昴太くんのことが心配で仕方ないんですよ。挙句には、力づくでレイプですか? 放っておけるわけが無いでしょう」
影山さんが、負けじとにらみ返す。彰の顔は、みるみるうちに紅潮していった。
「今すぐ、出て行け」
彰は、低い声で呟いた。
「こんな状態で、あなたと昴太くんを二人きりになんてさせられませんよ……」
「出て行かないと、警察を呼ぶぞ!」
彰がわめく。俺は、思わず口を挟んでいた。
「徹郎さん。俺は大丈夫ですから、もう帰ってください」
「でも……」
「本当に、大丈夫ですから。お願いします」
俺は、影山さんに懇願した。彼は渋っていたが、とうとう折れた。
「分かった。でも心配だから、後で必ず連絡してね?」
影山さんが帰ると、彰は今度は俺に詰め寄った。
「で? 一体どうして、あの男がこの家にいたんだ?」
「さっき、突然来たんだよ。昨日の俺たちの様子を見て、心配したからって……」
「昴太」
彰は、テーブルをバンと叩いた。
「何を気安く、他の男を家に入れてるんだ! それも、手まで握らせて。どう見ても、あいつは君に下心があるだろう。君には、警戒心というものが無いのか!」
――何で、俺ばっかり責められないといけないんだよ。
俺は何だか、むかむかしてきた。そんな俺の気持ちに気づく様子も無く、彰は続ける。
「それに、何? 昨夜のことをあいつに相談したのか?」
「相談したわけじゃ……」
「君は、何でもあいつに話すんだな。僕に話さないようなことでも」
――しつけえんだよ。
かっとなった俺は、思わず口走っていた。
「お前だってそうだろ! 匠さんに、何でもかんでも喋りやがって!」
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