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第113話 天罰が下ったのかな

「ええ? 本当か?」  俺は仰天した。 「ああ。由香里さん、遂に旦那の不倫に気が付いてな。実家に帰っちまったんだよ。彼女がいなくなって、あの店は売り上げガタ落ちらしい。おまけに、離婚の話も出てるみたいでな。由香里さんの親父って、囲碁界の有力者だから、文月九段、相当ヤバイことになりそうだぜ。お前、辞めてかえって良かったかも」  辞めた後そんな状況になっていたのか、と俺は驚いた。確かに、あの店は由香里さんのおかげで成り立っていたと言っても過言では無い。洋一さんにも遂に天罰が下ったのかな、と俺は内心思った。  ――それにしても馨は、いずみさんと洋一さんのことをどう思ってるんだろう……。  すると馨は、俺の心を読んだようだった。 「いずみさんのことは、俺もう、何とも思ってねえから」  俺は思わず、馨を見つめた。 「もう最近は行ってねえけど、俺あの後も何回か、『文月』に行ったんだよな。そしたら彼女、平気で由香里さんと話してるわけよ。その様子を見たら、何だかもう、幻滅しちゃってさ……。あの時は、悪かったよ。お前に八つ当たりみたいな真似して」 「いや、俺こそ悪かった」  完全に吹っ切れた様子の馨を見て、俺は一安心した。その時、馨のスマホが鳴った。着信画面を見た奴は、何やら頬を緩めた。 「悪い、ちょっと待っててくれ」 「うん」  馨は、スマホを握りしめて、いそいそと部屋の外に出て行った。  ――ははん。  電話を終えて戻って来た馨に、俺は尋ねた。 「おいおい、もしかして彼女ができたのか?」 「まだ、そうとまでは言えねえけど……。会社の他部署の後輩でさ。最近、ちょっといい感じで」 「おおーっ。お前、やったな」  俺は手放しで喜んだ。俺はこんなだけど、親友が幸せなのは嬉しい。俺はその夜、馨の部屋の床で、ちょっとだけ明るい気分で眠りについたのだった。 「それでお前、今日はどうするんだ?」  翌朝、馨は俺に尋ねた。 「まあ、普通に仕事に行って、夜はネカフェにでも泊まるよ。昨夜は泊めてくれてサンキュな」  すると馨は、顔を曇らせた。

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