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第118話 彼との関係を見直した方がいいい

「――いや、それはちょっと」  さすがの俺も、自分を好きだと言ってキスしてきた男の部屋に泊まるほど馬鹿ではない。すると影山さんは、意外なことを言った。 「ああ、誤解しないで。実は俺の親父って、貸しビル業をやってるんだよ。俺のアパートも、親父の持ち物の一つなわけ。ちょうど空き部屋があるから、そこを使わせてあげようかと思って。布団とかは俺のを貸してあげるから、今晩から早速泊まれるよ。どう、来ない?」 「――そうなんですか」  ――部屋が違うなら、危険は無いか……。  正直、ネットカフェも気が進まないところだった。どうしようか逡巡していると、影山さんはさらに続けた。 「俺が思うに、昴太くんと彰七段は、少し距離を置いた方がいいと思うんだ。その方が、二人とも冷静になれると思うから。俺の友達なら、親父も安くしてくれるし。だから、しばらくうちにいなよ」  馨の言うこととは正反対だな、と俺は思った。迷ったが、俺は影山さんの方に従ってしまった。ネットカフェに泊まりたくない、ということもあったが、きっとそれだけ、心が弱っていたのだろう。  彰のマンションから持ち出した最低限の所持品を持ってやって来た俺に、影山さんはあれこれと世話を焼いてくれた。布団やその他生活に必要なものは、彼が全て用意してくれた。こうして俺は、ずるずると三日間もその部屋に滞在してしまった。 「昴太くん、住み心地はどう?」  三日目の夜、影山さんはまた俺の様子を見にやって来た。最初は警戒していたが、彼の態度は至って紳士的だ。そんな彼に、俺は心を開きつつあった。ちなみに彰からは、相変わらず何も言って来ない。俺の方から連絡する勇気も無かった。 「ああ、大丈夫です。すみません、何から何まで」 「あれから、彰七段とはどう?」  俺は、黙ってかぶりを振った。そんな俺を見て、影山さんは言いづらそうに口を開いた。 「そうなんだ……。いや、実は黙っていたんだけど、以前彰七段から俺宛てに、こんなものが送られて来たことがあったんだ。昴太くんのことは諦めろって、メモが添えられてた。正直、これを見て俺は、昴太くんは彼との関係を見直した方がいいんじゃないかって思ったよ。ずっと、伝えるべきか迷ってたんだけど……」  そう言って彼が見せたのは、USBだった。俺は思わず、それをひったくった。 「彰から!? どんな中味だったんです?」  そう尋ねると、影山さんは何故か顔を赤くした。 「俺の口からはとても言えないな……。自分で、直接確認した方がいい。パソコンなら、俺のを貸すから。――ああ、言っておくけど、俺全部は観てないからね? 最初だけ観て、すぐストップしたから」  ――一体、何だってんだよ……。

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