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第119話 盗撮だって、きっとするだろう

 さっぱりわけが分からないまま、俺は影山さんのパソコンを借りて、USBの中味を確認することにした。影山さんは、とても一緒には観れないと言って、そそくさと部屋の外に出て行った。俺はますます不思議に思った。  パソコンにUSBを差し込み、しばし待つ。入っていたのは、何やら動画であった。ドキドキしながら、再生してみる。映し出されたのは、どこかのマンションの一室だった。時間的には、昼間だろうか。レースのカーテンの向こう、ベッドの上で、二人の人間が裸で激しく絡み合っている。  ――エロ動画? でも何で彰がこんなものを……。  俺は、さらに目を凝らした。しばらくして二人の顔が確認できた途端、俺は絶叫しそうになった。ベッドの上で組み敷かれていたのは、他ならぬ俺だったのだ。そして組み敷いているのは、彰。  場所は、彰のマンションのようだった。ということは、一緒に住み始めた当初だろう。まだ、匠の陰謀にも気づいていない頃。何も知らない動画の中の俺は、夢中で彰の背にしがみつき、快楽に溺れていた。幸せいっぱいだった頃の俺。  耐え切れず、俺は再生をストップした。影山さんは、これを送ったのが彰だと思い込んでいる。『僕らはこんなに愛し合っているんだから、諦めろ』というメッセ―ジだと解釈しているようだ。  ――彰が、こんなことするはず無い。  俺の声を誰かに聞かれるだけでも嫌がる彰なのだ。第一あいつは、こんな下品な手段を取るような奴じゃない。  ――匠の仕業だ。  俺は、怒りに燃えてUSBを引っこ抜いた。あいつは盗聴する奴だ。盗撮だって、きっとするだろう。  ――もう、我慢ならねえ。 「徹郎さん! 俺、ちょっと出かけてきますから!」  外にいた影山さんに声をかけて、俺はアパートの部屋を飛び出した。  俺は、走って彰のマンションに辿り着いた。合鍵でオートロックを開け、エレベーターへ駆け込む。しかし、部屋の前まで来て鍵を差し込もうとして、俺ははっとした。  ――鍵が合わない。

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