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第120話 鍵なら、替えましたから
――鍵を替えられた? そんな、まさか……。
その時、ドアがガチャリと開いた。出て来たのは、匠だった。
「風間さん。お久しぶりですね」
匠は、にこりともせずに言った。
「鍵なら、替えましたから。あなたには、もう必要無いですよね? 兄とは、終わったんでしょう?」
「……」
俺は、絶句した。鍵くらい、匠なら勝手に替えるだろう。でもそれは、彰の了承が無いとできないことだ。俺はしばらく呆然としていたが、そこではたと思い出した。今日来たのは、盗撮動画のことを問い詰めるためではないか。
「そうだ。お前、あのUSBは何なんだよ!」
すると匠は、首を傾げた。
「何のことですか?」
「とぼけんな! 俺と彰のエッチを盗撮して、USBを影山さんに送り付けただろうが!」
「何を仰っているのか、さっぱり分かりません。あなたって人は、何でもかんでも僕のせいにしたいようですね」
匠は肩をすくめた。俺は、かっとなった。
「お前以外に誰がいるって……」
「ハイ、これ」
匠は俺の言葉を遮ると、何やら大きな紙袋を押し付けてきた。
「何だよ、これ」
「あなたの荷物です」
――そんな……。
俺は、血の気が引くのを感じた。
「もしあなたが来たら渡してくれ、と兄から言われていたんですよ。来てくれて、ちょうど良かったです」
見ると中には、確かに俺のノートパソコンや服などが入っていた。彰とペアで買った食器がちらりと見えて、俺は不覚にも泣きそうになった。
「大きい荷物はお送りしますから、また送り先を教えてください。そうでないと、処分しますよ。邪魔ですからね。これも、兄からの伝言です。それじゃ」
「おい待て! 彰と話させてくれ……」
しかし、ドアは無情にも俺の鼻先で閉まった。わざとらしく大きな音を立てて、中から施錠するのが聞こえる。俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
――この数日間、音沙汰が無かったのは、やっぱり別れる気だったのか……。
俺はスマホを取り出すと、彰にメッセ―ジを打った。
『お前の気持ちはよく分かった。ベッドとか、大きい荷物は処分してくれていい。今までありがとう』
――彰に散々抱かれたあのベッドで一人で眠るなんて、寂しすぎるから……。
メッセ―ジを送った後、俺は彰の連絡先をブロックした。最後に、郵便受けに合鍵を放り込んで、俺はマンションを後にしたのだった。
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