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第124話 俺と付き合ってよ

 バタン、と影山さんの後ろでドアが閉まる。何となく嫌な予感がして、俺は後ずさった。 「な……何ですか」 「昴太くん。いつまで彰七段のことを引きずってるの?」  影山さんが、ずいずいと近づいてくる。俺はとっさに彼から離れようとしたが、狭い玄関では、もう逃げ場は無かった。 「もういい加減、認めなよ。彼とは、終わったんでしょう? 今さら、話す必要なんて無いよ」 「徹郎さ……」  次の瞬間、俺は影山さんに抱きすくめられていた。 「止めて……放してください!」 「俺もさ、強引な真似はすまいと思ってたけど、もう限界。あんな動画を送り付けてくるような男のことは忘れて、俺と付き合ってよ……」  影山さんは、片方の腕で俺を抱き込んだまま、もう片方の手で俺の顎を捕らえた。避ける間も無く、唇が重ねられる。俺は必死でもがいたが、彼の力は予想以上に強く、振りほどけなかった。  ――何で、こんな……。  その時、ドンドンと誰かが玄関のドアを叩く音がした。一瞬、影山さんの注意が逸れたのを見逃さず、俺は素早く彼の腕の中から抜け出した。しかし、ドアを開けた瞬間、俺は息を呑んだ。そこに立っていたのは、彰だったのだ。  ――どうして、ここが……。 「彰七段? 今さら昴太くんに、何の用……」 「昴太。これを君に渡しておくよ」  影山さんを無視して、彰は俺に封筒を押し付けた。 「これは……?」 「速水拓斗から取り返した、三十万だ」  俺は絶句した。彰はそれだけ告げると、さっさと踵を返した。 「彰! 待てよ!」  階段を駆け降りて行く彰を、俺は慌てて追いかけた。彰は歩みを止めないまま、アパートの敷地から出て行こうとする。 「待てってば!」  敷地の外に出たところで、信号に引っかかった彰は立ち止まった。ようやく彰に追いついた俺は、奴の肩に手をかけると、無理やり振り向かせた。

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