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第125話 どうせお前は、あの男の息子
「どうして、僕を引き留める必要がある?」
ようやくこちらを向いた彰を見て、俺はドキリとした。奴は、これまで見たことが無いほど冷たい表情を浮かべていた。
「あんなメッセ―ジ一通で僕を切り捨てて、他の男と同棲を始めたような君が、今さら僕に何の用だ?」
「同棲って、違……」
――こいつ、何勘違いしてやがる……!
弁明など聞きたくもないといった様子で、彰は俺の言葉を遮った。
「今日は、ほのか幼稚園に行くところだったんだよ。影山から、君の居場所を聞き出そうと思ってね。ついでに、聞きたいこともあったし……。そうしたら最寄り駅付近で、偶然君たち二人を見かけた。まさかと思って後を付けたら、すでにあの男と同棲していたとはね。今日という今日は、君に愛想が尽きたよ」
彰は、怒りと軽蔑に満ちた目で俺を睨みつけた。
「昴太くん!」
そこへ、背後から影山さんの声がした。俺を追いかけて来たらしい。彰は、俺の肩越しにチラリと彼を見てから、プイと俺に背を向けた。信号は、いつの間にか青になっていた。彰が、早足で歩き出す。
「彰!」
――このままあいつを帰してはいけない気がする……!
それは、俺の直感だった。俺は、無我夢中で彰を追いかけた。信号が、赤に変わろうとしているのにも気付かずに……。
「危ない!」
影山さんの悲鳴とともに聞こえたのは、車が急ブレーキをかける音だった。危うくはねられそうになった俺を、影山さんがしっかりと抱き留める。彰は、一瞬こちらを振り向いたが、黙って歩き去って行った。俺は、悲しさと悔しさで、思わず叫んでいた。
「彰の馬鹿野郎! もう、お前なんか知るか! どうせお前は、天花寺義重の息子だあ!」
俺の最後の台詞が、彰の耳に入ったかどうかは分からない。泣きじゃくる俺を、影山さんはただじっと抱きしめていてくれた。
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