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第131話 男として、お前が好きなんだよ
「君が出て行った後、僕は巽君に君の行方を聞こうと、『文月』を訪れたんだ。でも、彼はなかなかつかまらなかった」
――馨、最近『文月』に行ってないって言ってたもんな……。
「困り果てた僕は、仕方なく文月九段に聞いてみた。すると、彼が……」
由香里さんに出て行かれ、店の売り上げも落ちて苛立っていた洋一さんは、ヒステリックにわめいたのだという。
『風間君が辞めた後どうしているかなんて、知るものか。大体君らは、何なんだ? 兄弟そろって、うちの店で彼のことをあれこれ嗅ぎ回って』
「匠が『文月』に来て君のことを聞いていたなんて、初耳だった。だから僕は、その後匠に探りを入れた。しかし彼は否定した。『文月』など行ったことは無いと。匠は、明らかに嘘をついたんだ」
「……」
彰は、俺の目をじっと見つめた。
「昴太。君の話を聞こうとせず、悪かった。匠と何があった? 話してくれるか?」
俺は、ぽつりぽつりと語り始めた。匠が、俺の皿をわざと割ったこと。発作や、病状の悪化は嘘だったこと。俺の生徒たちに、俺を中傷するメールを送ったこと。その際は、興信所まで使い、馨の仕業のように装ったこと。そしてそのメールには、俺たちのエッチ声が添付されていたこと。それは、盗聴して手に入れたものであること……。
最後の話を聞くと、彰の顔は険しくなった。
「一体、どうしてそんな真似を……」
彰は、絞り出すような声で言った。俺は、意を決した。
「彰。匠はな、お前が好きなんだよ。兄貴としてじゃなく、男として」
「馬鹿な……。全く、気づかなかった……」
彰は、呆然としている。俺はためらった挙句、勇気を振り絞って打ち明けた。
「本当だ。だって俺、見たんだ。お前が、地方の仕事で留守にしてる夜。匠の奴、その、スマホに録音したお前の声を聞きながら、一人でしてた……」
彰が、頭を抱える。俺は不安になった。
「信じてくれ! そりゃ、証拠を見せろと言われれば、無いけれど……」
「信じるよ。昴太が嘘をつくはずないから」
彰は、俺にちょっと微笑んで見せた。
「それに、証拠ならある。ここにね」
そう言って彰が取り出したのは、匠のスマホだった。俺は目を丸くした。
「何で、お前がそれを持ってんだ?」
「さっき、家を抜け出すのを手伝ってくれた人がいるって言ったろ? その人が、これを持たせてくれたんだ」
「――一体、誰?」
すると彰は、微苦笑を浮かべた。
「僕の実の母親だよ」
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