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第132話 本当に愛する人の元へ行け
「詩織さんが?」
俺は、大声を上げた。すると、彰は意外そうな顔をした。
「彼女を知っているの?」
「う、うん。『マロン』て店で指導碁を受けたことがあって、その時少し話して……」
「そうなんだ。彼女、婚約お披露目の場に来ていてね。産みの母親なんだからって、父を押し切ったらしい。そして隙を見て、僕を逃がしてくれた。本当に愛する人の元へ行けって」
俺は思わず、胸が熱くなった。
「僕の所持品は取り上げられて管理されていたんだけど、彼女がお金とこのスマホを持たせてくれたんだ。だから、ここに来るまでの間、何度かこれで君にかけたんだけどね」
「――ごめん」
――匠からの着信と思い込んで無視していたけど、彰からだったのか……。
「しかし、彼女もどうして匠のスマホを持たせたんだろう? 間違えたのかな……?」
彰は不思議そうに首を傾げているが、俺はピンときた。詩織さんは、わざと匠のスマホを持たせたのだろう。何故なら俺は、あいつが盗聴した音声をスマホに隠し持っていることを、確かに彼女に告げたのだ……。
「彰、それ貸してくれ」
俺はスマホを取り上げると、データを探し始めた。それらしきフォルダは見つかったが、パスワードがかかっている。
――畜生。
俺は舌打ちしたが、ふとアイデアがひらめいた。俺は、試しに彰の誕生日を打ち込んでみた。案の定、フォルダは開いた。
――完璧な計画を練る奴だと思っていたけど、案外可愛いミスもするんだな……。
果たしてフォルダ内からは、メールに添付されていた音声データが見つかった。フォルダ内には他にも、動画が何種類か保存されていた。いずれも、彰のマンションの部屋で俺たちが抱き合う様子を撮影したものだった。
――よくも、こんなもん撮りやがって。
俺は次第に、吐き気を催してきた。彰は声も出ないのか、しばらく黙り込んでいたが、やがてぽつりと言った。
「これが、メールに添付されていたって? じゃあ昴太の声を、色んな人が聞いたんだね」
「お前、ツッコミ所はそこかよ……」
俺は呆れた。
――この調子じゃ、影山さんに送り付けられたUSBの話なんて、とてもできねえな……。
しかし、そこまで考えて、俺ははっと気がついた。このスマホの中の動画は、明らかに室内で撮影されたと思われるものばかりだ。でもあのUSBの動画は、カーテン越しだった。つまり、部屋の外から撮影されたということだ……。
――よく考えたら、同居している匠が、わざわざ外から撮影するか……? じゃあ、あのUSBは、匠の仕業じゃない……?
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