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第133話 盗聴魔が、二人もいた

 俺は、匠にUSBを突き付けて問い詰めた時のことを思い出した。 『何を仰っているのか、さっぱり分かりません。あなたって人は、何でもかんでも僕のせいにしたいようですね』  ――ひょっとして、あれは本音……? でも、匠でないとしたら、一体誰が……?  その瞬間、俺の脳裏に、今朝の影山さんの台詞が蘇った。 『バックがいいの? 珍しいね』  ――まるで、俺たちの性生活について熟知しているような言い方……。 『彰七段から俺宛てに、こんなものが送られて来たことがあったんだ……彼との関係を見直した方がいいんじゃないか』 『あんな動画を送り付けてくるような男のことは忘れて、俺と付き合ってよ……』  そういえば、匠のスマホ内の動画は彰に焦点を合わせているのに対し、あのUSB内の動画は俺をアップにしていた、ということにも気付く。俺は、次第に青ざめていった。  ――まさかあれは、影山さんの自作自演? 俺と彰を、完全に別れさせるための……? 「どうしたの?」  彰が、心配そうに俺の顔を覗き込む。俺は慌てて、首を横に振った。 「何でもない」  ――こいつだって、今大変な時なんだ。確証も無いことで、心配をかけるわけにはいかない……。 「昴太。本当に、すまなかった」  彰が、俺をぎゅっと抱きしめる。俺は、ううん、と言った。 「俺こそ。荷物を処分していいなんて言ったり、連絡先をブロックしたりして、ごめん。実は出て行った後、一度マンションへ戻ったんだ。そしたら、匠が俺の荷物を持って出て来て。お前が渡せと言った、と言ってた」 「僕はそんなこと言ってないぞ? 逆に、君が荷物を引き取りに来たと聞かされていた」  彰が、顔色を変える。分かってる、と俺は言った。 「あいつの言葉を鵜呑みにしたくは無かった。でも、鍵、替えたろ? あれで、お前はもう、俺と縁を切るつもりなのかなって、思っちゃって」  すると彰は、苦虫を噛み潰したような顔をした。 「そうか……。実は君が出て行った後、リビングから盗聴器が出て来たんだよ。それで、怖いから鍵を替えよう、と匠が騒ぎ出したんだ。僕も速水の件で忙しかったから、あいつに任せてしまった。ちゃんと昴太にも連絡するように、と言っておいたんだが……」  俺は、黙ってかぶりを振った。 「影山が来た後だったから、あいつの仕業かな、と疑ったりもしたが。でも今から考えれば、それもきっと、匠の自作自演だろうな。まったく……」  彰はぶつぶつ文句を言っているが、俺はどうだろうと思った。彰と喧嘩して家を飛び出したことを、影山さんは妙に勘良く察知していた。彼がマンションを訪れた際に、リビングに盗聴器を仕掛けたなら、それも納得できる。  ――盗聴魔が、二人もいたのかよ……。  俺は、ため息をつきたくなったのだった。

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