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第140話 彼への疑惑を確かめよう

 翌日の夜、俺は一人で影山さんの部屋を訪れた。彰は、吉田初段とその親に、婚約破棄を申し入れに行っている。帰りは遅くなるだろうとのことだった。その機会を利用して、俺は影山さんへの疑惑を確かめようと思ったのだ。 「俺、彰のことは諦めることにしました」  開口一番宣言すると、影山さんは目を見張った。 「本気?」 「はい。もう婚約までされたら、仕方ないですよ。徹郎さんにはご心配をおかけして、すみませんでした」 「いやいや、俺のことなんて気にしないでよ」  影山さんは、ひらひらと手を振った。 「いえ。何から何までしていただいて、申し訳ないなと思ってるんです。だから、こんなことくらいでお詫びにはならないかもしれないですけど、良かったら食事でも作らせてもらおうかと思って。晩飯、もう済んじゃいました?」  急にこんなことを言い出して怪しまれないだろうか、と俺は心配した。しかし影山さんは、意外にもすんなり受け入れてくれた。 「昴太くんが作ってくれるの? それは嬉しいな。晩飯なら、まだだよ」 「それなら良かったです。食材は持ってきましたから、台所をお借りしてもいいですか?」  いいよいいよ、汚いけどね、なんて言いながら、影山さんは台所に通してくれた。まずは作戦第一段階成功、と俺は安堵した。  手伝うという彼の申し出を断って、俺は素早く調味料の類をチェックした。  ――チッ。全部そろってるな。  影山さんの方を窺うと、彼はテレビを観ていた。その隙に俺は、半分くらい残っていた醤油を、全て流しに捨てた。 「徹郎さん! ちょっと、困っちゃったんですけど」  俺は、わざとらしく声を上げた。 「何だい?」 「醤油が切れてるみたいで。煮物を作りたかったんですが……」 「あれ、そうだっけ?」  影山さんは、不思議そうな顔をした。俺は、固唾を呑んで見守った。 「なら、ひとっぱしり買って来てあげるよ。せっかく昴太くんが作ってくれるんだものね」  彼は、俺が期待していた台詞を吐いた。計画通りの進行に、俺は胸を撫で下ろした。ここらに、コンビニは無い。一番近いスーパーでも、自転車で片道十五分はかかるのだ。俺は、彼が出かけた隙を利用するつもりだった。  すみませんとしおらしい素振りで影山さんを送り出した後、俺は台所をそのままに、彼のパソコンデスクの所へ飛んで行った。サイドチェストの引き出しを、片っ端から開けてみる。そして一番下の引き出しを開けた瞬間、俺はあっと声を上げそうになった。  出て来たのは、大量のUSBだったのだ。その一番上にあったのは、彰から送り付けられたと言って影山さんが俺に渡したものと、同じ種類だった。

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