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第141話 全部俺がやった

 ――落ち着け。同じ種類のUSBだからといって、影山さんが犯人とは限らない……。  俺は自分に言い聞かせながら、密かに持参したノートパソコンを立ち上げた。震える手で、その同じUSBを差し込む。表示されたのは、『K・A』という意味深なタイトルのフォルダだった。中を開いた俺は、思わず頭を抱えたくなった。  ――やっぱりか……。  収められていたのは何種類もの、俺と彰のエッチの盗撮動画だった。彰のマンションの部屋での行為を、カーテン越しに撮影したもの。まさしく『送り付けられた』動画と同じやり口だった。  ――一体、どうやって撮ったんだ……。  その時俺はふと、『K』というタイトルの、別のフォルダの存在に気づいた。恐る恐る開いて、俺は絶句した。それは、俺一人を撮影した動画だったのだ。それも、着替えや入浴の様子など、裸を映したものばかり。場所は、このアパートの部屋だった。部屋を手配したのは、影山さんだ。きっとあらかじめ、盗撮カメラを取り付けていたのだろう。  ――風呂場にまで、取り付けたってことかよ……。  俺は、ぞっとした。  ――ん? てことは、まさか……。  俺は慌てて、最新のデータを探した。思った通り、それは昨夜の、俺と彰の浴室での行為を映したものだった。 「それ、最新の」  不意に、背後で声がした。ぎょっとして振り返ると、影山さんが立っていた。 「昨夜のその動画を観ていたからね。君が彰七段を諦めるって言いに来た時、おかしいと思ったんだ。だから、出かけるふりをして様子を窺っていた」  ――俺の魂胆なんて、お見通しってことかよ……。 「嘘ですよね? 徹郎さんが……?」 「ああ、全部俺がやった」  影山さんが、俺にずいと近づく。俺は思わず、後ずさった。 「色々、楽しませてもらったよ?」 「ど、どうやって……。特に、彰のマンションでの映像とか……」 「俺の親父、貸しビル業って言ったでしょ。ちょうど、彰七段のマンションの向かいのビルが親父の持ち物でね。ラッキーだったよ」  俺は、愕然とした。 「卑怯ですよ、こんなの……。俺、徹郎さんのこと、信頼してたのに。そりゃ、恋愛感情とは違ったかもしれないけど……」 「卑怯、ね。そう言われれば、そうかも。――知ってた? 俺が君に近付いたのって、元々は復讐のためだったって」  ――復讐?  影山さんの口から飛び出した思いがけない言葉の意味が、俺は理解できなかった。

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