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第144話 守ってやるって、約束してくれたのに
「やれやれ、兄さん思いの弟なんだなあ……。ほら」
俺が呆然とした隙に、影山さんは匠にUSBを渡してしまった。
「これでいいだろ? じゃあ、カメラをよこしてくれよ」
しかし匠は、応じようとしなかった。
「できません」
「な……! おい、約束が違うだろうが!」
影山さんが、顔色を変える。その時俺はふと、匠があらぬ方向を凝視しているのに気がついた。奴の視線は、先ほど俺が開けたサイドチェストの引き出しに注がれていた。そこからは、沢山のUSBが顔を覗かせていた。
「そのUSB、全て頂けますか」
匠は、こともなげに言う。影山さんは、目を剥いた。
「何だって? あれは、関係無いよ。昴太くんと君の兄さんのデータが入ってるのは、これだけだ」
「そんなの、分からないじゃないですか。ここで、中味を全て確認させてもらえますか?」
匠は、臆せず影山さんに迫っていく。影山さんは、顔を強張らせた。
「君、何の権利があってそんなことを! さっさと、カメラをよこせ!」
影山さんが、匠につかみかかる。その時、よく通る声がした。
「昴太。やっぱりここか!」
はっと振り向くと、彰が玄関から入って来ようとしていた。
「兄さん!」
匠は、影山さんを振り切ると、誰よりも早く彰の元へ駆け寄った。
「さあ、一緒に帰りましょう。迎えに来たんですよ」
しかし彰は、腕にかけられた匠の手を振り払った。
「兄さ……」
「僕は、帰らないよ。天花寺の家にも、お前と暮らしていたマンションにも。これからは、昴太と二人で生きていくから」
匠の顔が、みるみる青ざめていく。
「僕を見捨てるんですか? ずっと守ってやるって、約束してくれたじゃないですか!」
「見捨てるつもりは無い。具合が悪ければ、看病に行ってやる。でもな、お前は弟なんだ。いつまでも一緒にいることはできない。分かるだろう?」
「……」
匠は、しばらくの間その場に固まっていたが、やがてにっこりと笑った。その笑顔を見て、俺は何だか背筋が寒くなった。
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