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第137話 一緒に入ろうか?
不意に、彰がくしゃみをした。
「ん? 風邪か?」
「というほどでも無いけど……。今日は冷え込みがきつかったから」
そうは言いながらも、彰の顔色は悪い。あれだけ奔走すれば、無理も無いだろう。どう考えても、オーバーワークだ。
――まあ、俺のせいなんだけど……。
「風呂沸かすから、暖まれよ」
すると彰は、にっこり笑った。
「じゃあ、一緒に入ろうか?」
「アホか。お前んとこの広い風呂とは違うんだぞ?」
彰のマンションでは、匠がいない時間を見計らって一緒に入ったこともある。でもこの安アパート(影山さんには悪いけど)の狭い風呂場に男二人で入るなんて、無理に決まっている。
「やっとつかまえたんだ。片時も、離れていたくないんだよ……」
彰は、俺に抱きついて放そうとしない。こうなったら、こいつは駄々っ子だ。
「暖まる方が先だって!」
「そんなこと言うと、今すぐこの場で抱くよ? 風呂を後回しにして、それで僕が風邪を引いてもいいの?」
――何なんだよ、その理屈……。
とはいえ、久々の減らず口が、俺は何だか無性に愛おしく思えた。こうして俺は、奴の望みを叶えてやることにしたのだった。
予想通りぎゅうぎゅうになった浴室で、俺は彰の背中を流してやった。俺が付けた爪痕は、もう完全に消えてしまっている。
――そんなに長い間、離れていたわけでも無いのにな……。
彰は、そんな俺の気持ちなんてお見通しみたいで、クスリと笑った。
「また付けてもらったらいいよ? 痕」
「バーカ……」
彰は、俺のことも洗ってやる、と言い出した。それも、シャンプーから。
「早く湯に浸かれよ。身体が冷えるだろ」
「これくらいで、風邪なんか引かないから大丈夫。それに、久々に昴太の髪に触りたいんだよね……」
――さっきは、風邪引くかもって脅してたろうが……。
心の中でツッコミながらも、俺は彰に洗ってもらうことにした。器用な手つきで、彰が俺の髪を泡立てる。頭皮を擦る指の感覚が、心地良い。
「終わった。じゃあ次は、体ね」
「ん」
ところが彰は、俺の背中を流した後、胸の方にまで手を伸ばしてきやがった。
「どこ触ってんだよ! 背中だけでいいって!」
「体って言ったよ? 後ろだけとは言ってない」
彰は、俺の上半身をしっかり抱き込むと、俺の胸から腹にかけてスポンジでこすり始めた。胸を通過する時は、ことさらにゆっくりと。おまけに奴の指は、時折乳首をかすめていく。
――こいつ、絶対ワザとだろ……!
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