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第146話 正面から俺と勝負しろよ
「ばらまきたいんなら、好きにしろよ。俺はもう、お前の姑息なやり方なんて、怖くも何ともねえわ!」
「こここ昴太くん!?」
ムンクの叫びみたいな顔になった影山さんが俺を押しとどめようとしたが、俺はそれを振り払った。
「匠。お前、いつか言ってたよな。自分たちは父親も母親も違うんだから、何も問題は無いって。本当にそう思ってんなら、正面から俺と勝負しろよ! 恋人として自分を選んでくれって、彰にそう言えばいいじゃねえかよ。その勇気が無いから、弟の仮面を被ってんだろうが。だからお前は卑怯だって言ってんだよ!」
「よくもそのことを、兄さんの前で……」
匠は、真っ青な顔になったかと思うと、怯えた表情で彰の方を見た。彰は、匠の肩にそっと手を置いた。
「お前の気持ちは聞かせてもらった。お前が昴太にしたこともな」
「……」
「匠。悪いが、お前の気持ちには応えられない。例え血が繋がっていなくても、僕にとってお前は、やっぱり弟なんだ。それ以上には思えない。そして僕にとっての幸せは、昴太と一緒にいることだ。彼と一緒に生きていきたいと思っている。だから、お前も僕のことは忘れて、他に好きな相手を探してくれ。頼む」
影山さんは、口をあんぐりと開けて二人の会話を聞いていた。匠は、凍り付いたようにその場に佇んでいが、やがてぽつりぽつりと語り始めた。
「今までみたいな遊びならよかったんですよ。でも、兄さんが本気になるから……。すぐ分かりましたよ。この風間昴太って男は、これまでの相手と違うんだって。兄さんがこいつと出会って以来、何度その名前を聞かされたことか……」
俺は、初めて彰のマンションを訪れて、匠と会った時のことをふと思い出した。
『風間……昴太?』
意味ありげに、俺の名を復唱していた奴の表情が蘇る。きっとあの頃から、匠は俺を激しく憎んでいたのだろう。そして、俺が次にマンションを訪れた時にはもう、俺を陥れる計画が始動していた……。
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