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第147話 一人で頭を冷やさせた方がいい
匠は、死人みたいな表情で、よろよろと玄関へ向かった。影山さんは、呆けたように匠が出て行くのを眺めていたが、ふと思い出したのだろう、慌てて奴の後を追いかけようとした。
「おい! カメラをよこせ!」
そこへ、彰が立ち塞がった。
「さっきから、何ですか? 随分カメラに拘っているようですが。あれには、一体何が入っているんですか?」
「いや……。それは。別に、何でも無い」
俺を襲ったことがばれるとまずいと思ったのだろう。影山さんは口をつぐんだ。
「お見苦しいところをお見せして失礼しました。いずれ改めてお詫びに伺いますから」
彰は切り口上で告げると、俺を促した。
「さあ、帰ろう」
「う、うん」
俺は慌ててノートパソコンを鞄にしまうと、彰と一緒に影山さんの部屋を出た。
「匠さん、大丈夫かな。追いかけなくて良かったのか?」
俺の部屋に戻ってから、俺は彰に言ってみた。何だか心配になったのだ。すると彰は、ため息をついた。
「追いかけてどうなる? あいつの気持ちを受け入れられるわけでも無いのに、そんなことをしたって無意味だ。むしろ、変に期待させるだけだろう。あいつには、一人で頭を冷やさせた方がいい。君、前に言っていたろう? 僕が甘やかすから匠が増長するんだって。今回、全くその通りだと思ったよ」
――自棄になったりしないといいんだけど……。
「それにしても、形だけ結婚すればいいだなんて……。そんな台詞を口にするなんて、もう正気じゃないな。母親の不幸な結婚生活を、誰よりもよく知っているはずなのに……」
俺はそこで、あっと気がついた。
「ああ、そうだ、ごめん。影山さんの前で、色々ばらしちゃって。お前の家のこととか……」
「別にいいさ」
彰は、もう一度ため息をついた。
「いつかは世間にも分かることだ。愛情の無い人間が集まって無理やり家族ごっこをしていたんだから、ぼろが出る時が来て当然なんだよ。それに僕自身は、あの家を捨てるつもりだし」
「そういえば、婚約の話はどうなったんだ?」
「実は、難航していてね。女性が駄目だということや、父が勝手に仕組んだということは、吉田初段とその親御さんに話したんだけれど。でもなかなか納得して頂けなかった。特に親御さんは、娘に恥をかかすのか、と随分お怒りでね。だから結論から言うと、まだ話はついていない」
「――そうか。大変だな」
俺は、どう返答していいか分からなかった。
「ところで君は、何で影山の部屋にいたんだ?」
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