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第148話 自暴自棄になってるみたい
「――ええと」
俺は迷った挙句、本当のことは伏せておくことにした。彰は、疲労困憊といった顔なのだ。これ以上心配をかけるわけにはいかなかった。
「このアパートを出るって話をしに行ったんだよ。ほら、お前、言ってたろ? 二人でどこか新しい所に住もうって。だから早めに言おうと思って。ちょうどそこへ、匠さんが来たんだ」
なるほどね、と彰が頷く。我ながら良い嘘を思いついた、と俺はほっとした。
「じゃあ、影山が拘っていた、カメラの中身というのは?」
「――大したもんじゃねえよ。俺と影山さんが二人でいるところを、匠さんが撮影したんだ。どうってことない写真だけど、影山さん、お前に見られると思うとビビったんじゃないかな。ほら、お前、怖いしさ」
こんな説明で納得するだろうか、と俺はびくびくしていたが、意外にも彰はそれ以上追及しなかった。きっと、よほど疲れていたのだろう。
案の定、彰は風呂にも入らずに布団にもぐりこんでしまった。俺も、風呂は省略して寝ることにした。浴室の盗撮カメラのことを、思い出したからだ。
狭い布団で、ぴったりくっついて寝る。彰はすぐに寝息を立て始めたが、俺は何だか眠れずにいた。すると、スマホが通知を告げた。影山さんだった。
『まずいことになった。匠くんが、さっきの写真のことで脅してきたんだ。昴太くんは覚悟を決めてるみたいだけど、彼の話を聞いていたら、君や俺だけじゃなく、彰さんまでやばいことになりそうだ。何だか、自暴自棄になってるみたいで……。彰さんには内緒で、ちょっと抜けて来れないか? 俺にいい案がある』
――匠のやつ、今度は何をする気だ?
俺は眉をひそめた。影山さんはともかく、彰まで巻き込まれるとなったら、見過ごすわけにはいかない。俺はこっそり布団を抜け出すと、影山さんの部屋へ向かった。
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