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第149話 最後に思いを遂げたら?

 影山さんは、深刻な表情で俺を出迎えた。 「匠のやつ、一体何を言ってきたんです?」 「まあ、落ち着いて話そう」  影山さんは、俺を部屋へ通すと、コーヒーを勧めてくれた。  ――彰まで巻き込むなんて、よっぽど自棄になってるのかな。やっぱりあの時、追いかけた方がよかったんじゃ……。 「しかし、さっきは驚いたよ。天花寺一家に、あんな秘密があったとはね……」  影山さんは、自分もコーヒーをすすりながらのんびり喋っている。なかなか本題に入らない彼に、俺は苛々し始めた。 「あの、それで匠が言ってきたことって? それから、徹郎さんの案というのは……」  しかし話している途中で、俺はふと違和感を覚えた。何だか、頭が重いのだ。体も、ぐらぐらする。すると影山さんは、にやりと笑った。 「効いてきたかな」  ――え。 「君、何回騙されたら気が済むの? いくら彰さんの名前を出されたからって、のこのこやって来てさ……」  影山さんはやおら立ち上がると、俺の腕をつかんだ。俺は抵抗しようとしたが、身体の自由が利かなかった。あっという間に抱きすくめられ、ベッドへと引きずられていく。 「まさか、さっきのコーヒー……」 「しばらく眠っててもらおうと思ってね。そりゃ、あの動画みたいに可愛く乱れてほしいけど、贅沢は言ってられないな。これが最後のチャンスなんだし……」  影山さんは、俺をベッドに押し倒すと、無理やりキスしてきた。彼の身体を押し戻そうとしても、ちっとも力が入らない。ただでさえ力の差があるというのに、薬まで使われたんじゃ、俺はなす術が無かった。 「順調そうですね」  不意に聞こえた声に、俺はぎょっとした。見ればいつの間にか、部屋の片隅に匠が立っているではないか。しかも、影山さんに驚く気配は無い。  ――何で匠が……? どこかに隠れていたのか……? 「匠くんが、お膳立てしてくれたんだよ」  俺の服に手をかけながら、影山さんが言う。 「君、ここを出て彰さんと暮らすつもりなんだろ? もう俺にチャンスは無くなってしまう。だったら、最後に思いを遂げたらって、彼が勧めてくれてね。これも返してくれたよ」  影山さんは、ひょいとベッドの下に手を伸ばした。彼が取り出したのは、例のカメラだった。  ――回収済? じゃあ全部、嘘だったのかよ……!

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