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第150話 まとめて始末できる

「それにしても、睡眠薬まで提供してくれるとはね。ありがたい」 「母がよく飲んでいましたからね。いつか役に立つかと思って、昔くすねたんですよ」  匠は、満足そうに俺たちの様子を眺めている。影山さんは、ちょっと眉をひそめると、匠を見上げた。 「おい、協力してくれたのは感謝するが、そろそろ出て行ってくれよ。見られながらする趣味は無いし」 「へえ。勝手ですね。他人のセックスは見ておきながら、自分は見られたくないんですか」  そう言うなり、匠はつかつかと影山さんのパソコンデスクに近付いた。奴は何のためらいも無く、USBのあるサイドチェストの引き出しを開けた。影山さんが、顔色を変える。 「おい! まだそれに拘ってるのか! 関係無いって言っただろうが!」  影山さんは、焦ったように身を起こすと、匠の元へ駆け寄ろうとした。しかしその途中で彼は、頭を押さえてうずくまった。 「お前、まさか……。俺のコーヒーにも薬を入れたんじゃ……」  匠は、無言でUSBをかき集めると、上着のポケットにしまい込んだ。影山さんは、匠の足元に縋って阻止しようとしたが、匠はあっさりと彼を蹴り飛ばした。 「待て……。それを返せ……」  用は済んだとばかりに玄関へ向かう匠を、影山さんは床を這いながら必死に追おうとする。俺はその隙に、どうにか身体を起こして服を着た。  ――USBが目的で、影山さんにも薬を盛ったのか。まあいい。取りあえず逃げなくちゃ……。  しかし次の瞬間、俺は目を疑った。一度出て行った匠が、再び玄関から入って来たのだ。奴が手にしていたのは、灯油タンクだった。  ――まさか……! 「恋人の婚約を知って絶望した男が、自分に言い寄って来た男を道連れに自殺。こんな筋書きはいかがですか」  匠はにやりと笑うと、玄関先に積まれた雑誌や新聞の束に、灯油をまき始めた。 「止めろー!」 「匠、止せ!」  俺と影山さんは、必死に玄関へ這って行こうとした。匠が歌うように呟く。 「これで完璧だ。兄さんを奪った男と、兄さんのセックス動画を観た男を、まとめて始末できる……」  匠はライターを取り出すと、カチリと点火した。影山さんが絶叫する。 「おい、助けてくれ! 俺は関係ねえだろ! 俺が観たかったのは昴太の裸で、お前の兄貴に用はねえんだよ!」  一瞬、俺と匠の目が合う。そして奴は、ライターをぽとりと落とした。 

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