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第151話 亡くなった人とはどういう関係だったの
あっという間に、火が燃え広がっていく。匠は素早く身を翻すと、玄関から出て行った。
「俺のUSBを返せ!」
この期に及んで影山さんは、そんなことをわめきながら玄関へ向かおうとしている。俺は、とっさに判断した。
――玄関はもう危ない。そうだ、ここは二階だ……。
「徹郎さん! ベランダから逃げよう!」
それだけ叫ぶと、俺は力を振り絞ってベランダへ向かおうとした。しかし、体がいうことをきかない。意識も朦朧としてくる。
――ダメだ、ここで意識を失っちゃ……。
「昴太!」
――嘘だろ。
いるはずの無い人間の声が聞こえた。同時に、頬に痛みが走る。目を開けると、ぼんやりした視界に彰の顔が映った。
「昴太、寝たら駄目だ! 早くベランダへ!」
「彰……。お前、どっから……」
「とにかく早く!」
彰は、俺を抱きかかえるようにしてベランダへ連れ出した。
「上がれるか?」
彰にアシストされて、何とか手すりによじ登る。
「下は地面だ。足から着地しろ。分かったな!」
俺は深呼吸すると、言われた通りに飛び降りた。足に鈍い衝撃が走る。近づいて来るサイレンの音が、俺の最後の記憶だった。
気が付くと、俺は病院のベッドの上だった。足は骨折していたが、それ以外は特に問題無かったらしい。意識を失っていたのは、睡眠薬のせいだった。
「彰は大丈夫だった? 俺を助けてくれた奴」
付き添っていたお袋に、俺は真っ先に尋ねた。
「ええ。でもあちこちに火傷を負われたそうよ」
――火傷か……。
俺は陰鬱な気持ちになった。
「昴太が無事で良かったわ」
お袋はぽろぽろと涙をこぼした後、思いがけないことを言った。
「一体、どうしてこんなことに? 昴太、亡くなった人とはどういう関係だったの?」
俺はドキリとした。
「影山さん、亡くなったの?」
俺は、おそるおそる尋ねた。しかしお袋は、かぶりを振った。
「影山さんは、重傷だけど命に別条は無いそうよ。亡くなったのは、天花寺匠っていう人よ」
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