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第152話 とにかく知らぬ存ぜぬで

  ――匠が? 一体、どういうことだ。あいつ、火を付けて逃げたはずなのに……。  混乱する俺に向かって、お袋はこう話してくれた。俺、彰、影山さんの三人は、ベランダから脱出して何とか無事だった。そして消防隊が駆け付けた時、部屋には匠一人が残されていた。奴は病院へ運ばれたものの、助からなかったのだ、と。  パニックになっているお袋に、俺は取りあえずこう説明した。 「匠さんは、彰の弟ってだけ。彰とは、仕事関係で知り合って、友達になった。あの夜は、影山さんの部屋に遊びに行ったんだけど、寝ている間にいつの間にか火事になってて。俺も何が何だか分からない」  本当のことを言えば、俺がゲイだとお袋に知られてしまう。それに何より彰のために、あいつの弟が殺人者だとか、天花寺家にあんな事情があるなんて、漏らすわけにはいかなかった。お袋は心配そうにしていたが、俺はとにかく知らぬ存ぜぬで通したのだった。  しかし、警察はそうはいかなかった。 「影山さんは、大学時代の先輩で、今はほのか幼稚園の仕事で関わっています。天花寺彰は、仕事絡みで知り合った友人です。匠さんとは、彰の弟として、面識がありました」  三人との関係を尋ねられた俺は、そう説明した。しかし刑事たちは、すぐには納得しなかった。 「でも風間さん。あなたは今のアパートに引っ越す前、天花寺兄弟のマンションで、彼らと一緒に暮らしていたんですよね?」 「――はい。あの頃は、勤めていた囲碁サロンを辞めて、収入が落ち込みまして。心配した彰が、一時期住まわせてくれていたんです」  すると刑事たちは、顔を見合わせた。 「風間さん。隠したいお気持ちも分かりますが、正直に話していただけませんか? 実は、天花寺匠の自宅から、あなたと天花寺彰の性行為の動画が収められたUSBが発見されたんです」  ――匠が影山さんから奪い取ったあれか!

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