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第154話 彼と付き合い続けるのは反対よ

 やがて回復した影山さんは、警察にべらべら喋りまくった。ただし、自分に都合の良いように脚色して。俺を襲ったことについては、合意の上だと否定した。盗撮については、匠に罪をなすりつけた。  しかし、影山さんの嘘はあっさり見破られた。というのも、匠は病院に運ばれた際、彼から奪った残りのUSBを所持していた。そこから、園児の男の子たちの着替えの盗撮画像が大量に発見されたのだそうだ。道理でUSBを死守しようとしたはずだ、と俺は呆れ果てた。さらに、彰のマンションの向かいの影山さんの父親所有のビルで、彼が俺たちを盗撮していた証拠も見つかった。観念した影山さんは、もろもろの盗撮容疑を認めた。彼は退院を待って、逮捕されることになっている。  そして匠は、殺人未遂事件の被疑者として、死亡のまま書類送検された。  元々、近所の住人が灯油タンクを抱えた匠の姿を目撃していたこと、実際に奴が灯油を購入した事実が確認されたこと、俺たち二人から睡眠薬が検出されたことから、警察は匠に疑いの目を向けていた。決め手となったのは、匠の部屋から見つかった睡眠薬の残りと、日記だった。恐らく事件直前に記入したのだろう、奴は、『これで終わりにできる』という一文を残していたのだそうだ。そして俺と影山さんの証言から、警察は、匠が俺たち二人を巻き添えにした無理心中を図った、という結論を導いたのだった。  その後俺は回復し、松葉杖で歩けるようになった。しかし、彰を見舞いに行こうとすると、お袋は眉をひそめた。 「昴太。あなた、彰さんとの交際を続けるつもりなの?」 「当たり前だろ」  するとお袋は、ますます渋い顔になった。 「あのね。昴太が男の人を好きって知った時は驚いたけど、受け入れようと思ったわ。それに、あなたを助けてくれた彰さんには感謝もしている。でも、この先、彼と付き合い続けるのは反対よ。男同士だからとか、そういうんじゃない。あんな複雑な家庭に育った人って、どうかと思うのよ。それに、分かってるの? あなたを殺そうとしたのは、彼の弟さんなのよ?」 「母さんに何が分かんだよ!」  思わず、俺は怒鳴っていた。お袋が、目を丸くする。当然だろう。自分で言うのもなんだが、俺はおとなしい息子だった。母親に向かって声を荒げたことなんて、これまで一度も無い。 「彰がどんなにいい奴か、母さんは知らないくせに。それに、複雑な家庭っていうけど、彰も匠さんも、それぞれ苦しんできたんだよ。あいつのことを知ろうともしないうちから、あれこれ決めつけんなよ!」  お袋は、まだ納得しない様子だったが、見舞いに向かう俺を止めることはしなかった。

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