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第155話 どうして部屋に戻ったりしたんだろう

 病室を訪れると、彰は、あちこちに包帯を巻いた痛々しい姿で俺を迎えた。 「ごめん」  俺は開口一番、彰に謝った。 「警察に全部喋っちまって。匠さんが火を付けたこと」 「本当のことだから、仕方ない」  彰は、無表情で答えた。 「それから、ありがとう。助けに来てくれて……。よく分かったな?」 「君、スマホを置いていったからね。影山からのメッセ―ジを見て、慌てて奴の部屋へ駆けつけたんだ。ドアを開けたら、火の海だった。そして、君と影山が倒れていて……」  彰は、辛そうに目を伏せた。 「絶対に君を助けたかったんだ。どうにか君を先に降ろして、僕も飛び降りた。まあ影山も、自力で脱出したようで、良かったけれど……」 「でも、どうして匠さんは部屋に戻ったりしたんだろう? 警察には言わなかったけど、俺、確かに見たんだ。彼は火を付けた後、玄関から出て行ったのに……」  すると彰は、今にも泣き出しそうな顔をした。 「これは僕の推理だが……。僕が飛び込んで行くのを見て、僕を助けようとしたんじゃないだろうか。でも彼が部屋に戻った時には、もう僕らは脱出した後だった。それで自分も再び逃げようとしたが、間に合わなかったんだと思う。なぜなら、あの子は喘息もちだから。煙を吸えば、一発で発作が起きてしまう……」  確かに、彰が飛び込むのを見れば、匠なら追いかけるだろう。俺は、何と言っていいか分からなくなった。 「本当、ごめん。俺、匠さんの出生の秘密や、お前に惚れてたことまで喋っちまっったんだ……」  警察に動機を追及され、白状せざるを得なかったのだ。彰は、黙ってかぶりを振った。 「いいさ。それも本当のことだ。それに、影山だって喋った」 「――スキャンダルになっちまうな。お前、大丈夫か? この先囲碁界で」  すると彰は、自嘲めいた笑みを漏らした。 「それなら心配はいらないよ。退院したところで、棋士は当分休業だ。この手ではね」  俺は、その時初めて気が付いた。彰の右手に巻かれた包帯に。

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