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第163話 パートナーなんだから

「昴太? もしかして、嫌?」  彰が不安そうな顔をする。俺は思わず、奴に抱きついていた。 「嫌なわけ無いじゃんか……。何だか、夢みたいで。それに、嬉しかった。お前が、新しい所で一緒に暮らす約束、覚えていてくれて」 「当たり前だろう?」  彰が、俺の背中をぽんぽんと叩く。俺は身体を引き離すと、ぼそぼそと呟いた。 「だってさ……。お前、退院してから、ちっともその話をしないから。気が変わったのかって、思ってたんだ。その、匠さんの思い出のある場所で暮らしたいのかなって……」  すると彰は、はっと顔色を変えた。 「ごめん! そんな風に思ってたんだ。誤解だよ。ただ、店やマンションの売買が無事に済んでから、報告しようと思っていただけだ。匠の遺品については、僕が責任をもって何とかするから」  分かった、と俺は頷いた。 「じゃあさ、俺からも一つお願い、いい?」 「もちろん。何だい?」  俺は、ふっと詰めていた息を吐いた。 「彰。お前は、決断力も行動力もある。でもな、もっと俺に相談してくれ。でないと、気がもめて仕方ねえんだよ。拓斗から金を取り返してくれた時だって、一言も連絡寄こさねえで……。どれだけ不安だったことか」 「分かった。悪かった……」 「もっと、話し合っていこ? 俺たち、パートナーなんだから」  俺の言葉に、彰は大きく目を見開いた。  その夜、俺たちは久しぶりに肌を重ねた。あの事件以来、初めてのことだった。二人とも体が本調子でないということもあったが、何だかお互いにその気になれずにいたのだ。特に俺の方は、このマンションの部屋で抱かれる気にはならなかった。  ――もう、盗撮する奴はいないはずなのにな……。  穏やかに抱き合った後、俺は彰の腕の中で、奴の温もりに浸っていた。すると、彰が唐突に言った。 「昴太ってさ、『だめんず・うぉーかー』だよね」 「はあ?」  俺は、思わず眉を寄せた。  ――急に何なんだよ。しかも、何気に失礼だし……。 「速水拓斗に、文月洋一に……」 「わざわざ列挙すんなよ!」 「それから、天花寺彰」  俺は、息を呑んだ。 「いや、あの二人より、僕の方がずっとひどいよね。君をあんな目に遭わせて……」 「彰……」 「考え直すなら、今のうちだよ? 本当に、僕をパートナーに選んでくれるの?」  彰の茶色い瞳が、不安げに揺れる。俺は思わず、彰をきつく抱きしめていた。 「当たり前だろ、バーカ」 「昴太……」 「いいから、いつもみたいに自信満々でいろっての。そんな弱気なお前なんて、らしくねえ」  そう言って俺は、彰にちゅっと口づけた。彰の顔に、ぱっと笑みが広がる。そして奴は、今度はやや性急に、俺に覆いかぶさってきたのだった。

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